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「……失礼、します。」
用事があって訪れた営業部。
馴染みのあまりないその場所はやっぱり緊張する。
深澤さんはよく私の部署に顔出せるなぁと改めて思う。
深澤さんに会えるかもと期待して佐久間さんの用事を快く引き受けたのはつい先ほどのこと。
声をかけてフロアを見渡すけれど、深澤さんの姿は見えなくて。
最近、外回りが多いって言ってたもんな。
会えなくても仕方ない。
ちょっぴりガッカリした気持ちを、公私混同は良くない!と邪念を振り払うように頭をフルフルと振った瞬間。
「あれ?Aさん?」
最近よく聞くようになった彼の声が私を呼んだ。
「げ。……目黒くん。」
目黒「ふははっ!『げ。』って何ですか!その嫌そうな顔も。俺は会えて嬉しいのに。」
「……いや、思わず。」
できれば、特に、社内では会いたくない。
人気者の彼と一緒だと同じ女子社員からの視線が痛いから。
だけどそんなこと知らない目黒くんは、相変わらず嬉しそうな顔して真っ直ぐな言葉で話しかけてくる。
大型のワンコ……と思えば可愛くないわけでもないか……?
目黒「Aさん何しに……あ。それ佐久間さんの担当の資料、ですか?」
「あ、うん。よくわかったね。代わりに持ってきたんだけど……」
目黒「へぇ。……代わりに、ね?」
しまった、と思った時にはもう遅くて。
資料を代わりに持ってきた意図、つまりはちょっぴりだけど深澤さんに会えないかなと期待していたことを目黒くんは気付いたように問いかけてくる。
ああもう。なんでこういう時だけ鋭いんだろう。
思わず目をそらしてしまう。
目黒「俺に会いに来てくれたんだったら良かったのに。」
「いや、それはない。」
目黒「……即答は、さすがの俺も傷つきます」
「あ、ごめん!」
また笑うだけだと思ったからあえて冷たくしたのに、返ってきた目黒くんの返事は想像より悲しい声色で。
思わず目黒くんに視線を戻す。
目黒くんにはなぜか遠慮なく言い合えるからって、好きだと言ってくれた相手にあんまりな態度だった……。
そんな気持ちを込めて慌てて謝ったのに。
目黒「……ふはっ。」
「……え?」
目黒「冗談です。でも、やっとこっち見てくれた。」
驚いてる私を見て嬉しそうに目を細めた目黒くんに心の奥がくすぐったくなる。
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たぬ(プロフ) - 塩さん» 胸が暖かくなるやさしいコメントをありがとうございます。まだまだ上手く書けないですが、これからも楽しんで頂けるようがんばります!読んでくださりありがとうございます。 (2月23日 20時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
塩 - ふわふわしてて可愛らしくて、綺麗な文でつくられているのでとても好きな作品になっています𓈒𓏸これからの展開も楽しみにしています…! (2月21日 22時) (レス) id: 2759139232 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - 翡翠さん» 続きを楽しみにして下さり、コメントもありがとうございます!泣いて下さるなんて、申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちがせめぎ合っています。笑 続きも楽しめますように。 (2月13日 2時) (レス) @page40 id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 切なすぎて泣きながら読みました笑 続きが楽しみです (2月11日 22時) (レス) id: 6c0d9e0967 (このIDを非表示/違反報告)
たぬ(プロフ) - もぐさん» ご感想ありがとうございます。この作品が面白いのか私自身分からなくなってきていたのでそう言って頂けるととても嬉しいです。素敵な応援をありがとうございます。更新頑張れそうです…! (2023年2月24日 22時) (レス) id: dc32266bd7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たぬ | 作成日時:2022年11月27日 15時