事件No.6 ページ43
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「―――うぇーい、須貝駿貴じゃないか。相変わらず巨人だねぇ。その身長を私に寄越したまえ。対価は私愛用のロングピースだ。どうだい?」
「心配して損したわ」
病室に入った瞬間、意味の分からないことをマシンガンの如く立て続けに言ってくる彼女にそう溢せば、これまたうざい笑顔で「えーなに心配してくれたのー?やだうれしぃ」なんて言ってクネクネし始める。傷口叩くぞ。
この変人という言葉を具現化したような彼女は、神津Aという私立探偵だ。今は伊沢に雇われて、うちの会社専属の探偵をしている。
そんな彼女が何故病院に居るかと聞かれれば、簡単に説明すると河村君を庇って犯人に包丁で刺され、野次馬が呼んだ救急車で搬送。そのまま入院、という形だ。探偵という職業も、案外楽では無いらしい。
「てか最近あんた甘いもん爆食いしてんだって?伊沢があいつのせいで俺の金が無くなる!って嘆いてたよ」
「いやーすまない。煙草を吸いすぎだって医者に取り上げられてから、その苛立ちが甘い物に向かってしまってな」
はいこれ、と反省の色が全く見えない彼女に駅前のケーキが入った白い箱を渡し、俺もベッドサイドに置かれたパイプ椅子に腰かける。仮にも包丁でぶっ刺されたというのに、まるでそれを感じさせない元気さだ。
いや、一応命に別状は無さそうで安心ではあるが、常にこれだとうざいものである。ケーキを頬張りながら、旨い暇だ旨い暇だと繰り返す彼女に黙って食えと言えば、怖いだのパワハラだの余計に煩くなる。
あんたもうちょっと静かに出来ないわけ?
「にしても、なんだか以前よりも君の雰囲気が暗い気がするな。なにかあったか?」
もう一度深くため息を吐いたところで、彼女が突然そんなことを言い始める。思わず驚いて、彼女が食しているケーキに向けていた視線を、彼女本人に向ける。
彼女がここに入院するようになって、俺が彼女にこうして見舞いに訪れたのは、これが初めてだった。仕事だとか大学院の研究だとかが忙しくて、足を運ぶ余裕がなかなか作れなかったから。
その間、何度も会っている伊沢にも、福良さんにも、河村君にも、誰にも「雰囲気が暗い」なんて言われなかった。
今日一週間ぶりに会った彼女だけが、俺を見て、そんなことを言った。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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