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「う”、ぁ……ッ」
今度はグサッという音と、生々しいぐちゃっという音が、混ざり合う。瞬間、神津さんが立っている場所にぴちゃっと赤い液体が溢れ落ち、目の前に立っていた彼女の背中は、下へと落ちていった。
膝をついて、お腹を押さえ、肩で息をしている彼女。その目の前で、真っ赤になった包丁を構え、笑みを浮かべている女。
なにが起こっているのか、全く分からなかった。遅くはない筈の情報処理能力が、今だけはなんの役にも立たなかった。
今、自分の目の前では、なにが起こっている?
「あーあ、指示されてた奴じゃない方刺しちゃった。でもまぁいっかぁ。私、航平君を家から遠ざけるなんて余計なことした貴女を、丁度殺したいと思ってたし」
「はぁっ、はっ……や、ぱり、な……ひと、りは……そうだと、思った、よ……なべ、君の……お隣さん……?」
こうちゃんの、お隣さん。確か、引っ越しの際お菓子とご当地キャラクターだという人形をこうちゃんに渡したという、女性だった気がする。茶髪の小柄な女性だと、前に言っていた。
だが、今そんなことどうでもいい。早く、彼女を病院に連れていかなければ。じゃないと、こんな出血量じゃ、手遅れになる。
「―――次は、間違えませんよ」
すれ違い様、女はそう囁いて、僕の横を通りすぎていった。それと同時に、力尽きたように神津さんが、地面に倒れ込む。辺りには既に人が集まり、腹部から血を流す彼女を見て悲鳴をあげる人も居た。
救急車に電話する、なんて簡単なことすら思い浮かばず、僕は彼女の元に駆け寄って、自分のハンカチを傷口にあてがった。一先ず止血しなければ、という考えだけは、頭を過ってくれたから。
「ふ、はは……あせ、てん、っ……ねぇ……」
「っ……周りの人が、救急車を呼んでくれました。もう少しです。それまで、なんとしてでも耐えてください。死ぬ気で耐えてください。もしこのまま死んだら、俺は貴女を……地獄の果てまで追いかけます」
「……おー……こ、わい……なぁ……」
―――こんな時までヘラヘラ笑っていた彼女は、僕の言うとおり救急車が来るまで意識を保ち続け、そしてストレッチャーに乗せられた瞬間、意識を失った。
救急車に同行した僕はただひたすらに、彼女の無事を祈ることしか、出来なかった。僕は、無力だった。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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