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―――同時刻。オフィス内に居た全員が求めていた人物、伊沢拓司は、呑気に駅前のケーキ屋に寄り、呑気にショーケース内に並んでいるケーキを指差しながら、呑気に店員に注文を伝えていた。彼曰く、彼等への土産らしい。
そんな彼が、初対面にして扱いにくさを感じられている彼女を、自らが経営しているQuizKnock株式会社の専属探偵として雇ったのには訳があった。
「よぉ、しーたく。こんなとこに呼び出すなんて珍しいねぇ」
「相変わらずその変な呼び方は健在の様で安心しましたよ、Aさん」
ある日の喫茶店。
駅の近くではないその喫茶店は、知る人ぞ知る名店と呼ばれている喫茶店であり、人通りの少ない場所に建てられているにも関わらず、人は多めであった。とは行っても、行列が出来るほどの人ではない。
雰囲気としっかり合わせてきた、穏やかなジャズの流れる店内で一人珈琲を嗜んでいた伊沢の前に、一時間も遅刻したにも関わらず、悪びれた素振りを一切見せずに現れた神津。彼女は軽い謝罪をすると直ぐ様彼の正面の席に持っていた荷物を放り投げ、自分も腰かけた。
自然な動作で足を組む彼女の癖を伊沢は確認し、メニューを差し出しながら「大遅刻するところも」と付け足す。ちょっとした嫌みを付け加えるところは相変わらずだ、と神津も笑みを絶やさず差し出されたメニューを受け取った。
「えーっと、和風カルボナーラとサラダ、飲み物は珈琲ブラックでお願いします」
神津の鳴らした呼び鈴を聞き、駆け付けた店員にちゃっかり昼食もセットで注文する。
その様子を呆れた笑顔で見つめていた伊沢は、厨房に向かう店員の背中を横目に、「俺にも一口下さいよ」と溢す。彼女が人のお金で食事を済ませるなんて、よくあることだ。今更非常識だと咎めることでもない。
「あんたの一口はでかいから0.5口ね」
「分かりにくいわ」
自由人で自分勝手な彼女と、一会社の社長として日々奮闘している彼は、歳も違えば産まれの故郷も違う。友人を介した知り合いでも無ければ、親戚でもない。一言でこの関係を言い表すのならば、元依頼人と、探偵。
一般的に、元依頼人との関係は事件が解決したその日、解消されることが多い。関わる必要性がまず無ければ、関係を続けるメリットが無いからである。
ならば彼等は何故まだこうして向かい合い、食事を取っているのか。それはこの伊沢という男の、律儀さにあった。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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