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「……その人は、何故お亡くなりになったんですか」
「私が駆けつけるのが遅かった。彼女は、私に調査を依頼したストーカーに、殺された」
それは、貴女のせいではないだろう。そう僕が声をかけようとした気配を感じ取ったのか、被せるようにして、彼女が言う。
「探偵失格だよ。依頼人一人、守れなかった」
どこか遠くを見つめて独り言のように溢す彼女の横顔は、今にも消えてしまいそうだった。少しでも風が吹けば、煙のように、僕らの前から姿を消してしまいそうな雰囲気だ。
「その死なせてしまった依頼人の雰囲気に、君は似ている。だから君には、重ねてしまうんだ。彼女の影をね。最近は似てる似てないに関わらず、君たちに重ねてしまっているが」
初めて、彼女が自分の事を言葉を一切濁さずに口にした瞬間だった。
これで話しは終わりだと言わんばかりに、彼女が席を立つ。
まだ福良のが残っているのではないかと、今にも消え入りそうな背中に投げ掛ければ、彼女は「ちょっと煙草吸ってくるだけさ」と言ってベランダに消えていった。
なんの確証もないが、あの煙草も、その殺されてしまった女性を忘れない為なのだろうか。それか、忘れるためか。彼女の影から逃げるように、煙で肺を満たして、目を背けているのだろうか。
「……案外彼女は、脆い人なのかもな」
誰かが言っていた。彼女はいつも笑っていて、心が強い人だ、と。
けれどきっと彼女は、少しでも弱い部分に触れれば、簡単に崩れてしまうのではないだろうか。それを自分でも分かっているから、必要以上に自分の内を明かさない。踏み込まれないよう、必死に、自分を守っているのではないだろうか―――。
「いやー、すまないね。変な話を聞かせてしまった。さて、では最後にぴー君の事件を纏めようか」
戻ってきた彼女は口調も表情もテンションも、なにもかもいつも通りな筈なのに、先程の彼女を重ねると、全てが無理矢理取り繕っているものにしか見えなかった。
正面に腰掛けた彼女からは、いつもより強く煙草の香りが染み付いている。バニラのような、甘く苦い香り。確かこの前、彼女はロングピースを愛煙していると言っていた。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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