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「僕は川上が危ないとは思いませんけどね」
「普段はな。あいつは、ストッパーが外れた瞬間暴走する。最悪、簡単に人も殺す」
「……」
「あいつにとってのストッパーはお前らだ。あいつから目、離すなよ」
睨むようなそれからは虚言を吐いているような様子は感じられなかった。彼女はなにも考えていないように見えて、全て計算した上で行動している。この言葉だって、彼女なりになにか確証があって、そう言っているのだろう。
変な話だ。一ヶ月以上前は、彼女と僕は絶対分かりあえないのだろう、なんて考えていたのに、今は彼女の発言一つ一つの真意すらも読み解こうとしてしまっている。
この目をしているときは、その発言が冗談では無いとき。目を細めたときは、なにかが自分の中で引っ掛かったとき。深海のように暗く濁った目をしているときは、見つめているものに、なにかを重ねているとき。
今彼女の目に映っている僕が、僕ではないように。
「……貴女はいつも、何を見ているんですか?」
「は?」
「貴女の目にはいつも、僕は映っていませんよね。僕に、誰か別の影を、重ねている」
「っ……」
くしゃっと、彼女の顔が歪んだ。そんな表情は、この一ヶ月半の間で初めて見た。驚きでもない。悲しみでもない。そう、例えるなら……―――恐怖。
「……ごめん」
ポツリと溢した言葉は、謝罪だった。
意外だった。彼女はどんなことがあっても、まるで反省していないような謝罪しかしない。すまーん、あらごめんなさーい、なんてヘラヘラした口調で言って、どんなことでも、心からの謝罪なんて絶対にしなかった。
それが今、僕に向かって、心からの謝罪をしている。急にペースを乱された気がして、調子が狂いそうだった。
「別に、謝罪を求めた訳では」
「……似てるんだよ、お前」
「え?」
「昔、死なせた子に」
ペン先が触れている紙の部分が、徐々に黒くなっていく。そんなことにも気づかないほど、今の彼女はなにも見えていなかった。その目は、今だけはしっかりと、僕だけを見つめていた。
死なせた。
助けられなかった、死んだでもない。死なせた。まるで自分に非があるような言い方だ。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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