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今まで付き合ってきた女性達にも「何を考えているのか分からない」と言われて振られて、仲の良い友人にすら「なに考えてんのか分からないよね」と言われる始末。
そこまで揃いも揃って言われると、自分は分かりにくい人間なのかと客観的に分析することも出来たし、最近はその要因がこのいつも貼り付けている笑顔であることも、なんとなく分かり始めていた。
だから、不思議だった。誰かに、自分の胸の内が、筒抜けになっていることが。
「それに私も、過去に君と同じ悩みを持っていた」
携帯灰皿にトントンと灰を落とし、咥える。その一連の動作に目を奪われている俺に、彼女は妖艶に微笑み、一度咥えた煙草を俺に差し出した。
「君も吸ってみるかい?案外癖になるよ」
「……いえ、僕は良いです」
案外癖になるよ。そう言ったときの彼女の表情が妙に切なく見えて、俺は断った。
彼女にとって、煙草はただ肺に煙を取り込むだけの物ではないのだろう。言うなれば、世間一般で言う自 傷に近いなにかを、俺は彼女から感じた。
「あんまり、吸いすぎないでくださいね」
「お、なになに、心配してくれてんの?やっさすぃ」
初めて彼女がここにやって来たときは伊沢の人選のセンスを恨んだりもしたが、一ヶ月一緒に時を過ごすと、徐々に彼女のことも分かってきた。
そしてそんな彼女に、自分自身を、重ねてしまったりもした。
どことなく、似ている気がするんだ。笑顔で全てをのらりくらりと交わす所が、肝心な部分には決して誰にも触れさせない所が、どこかで、一線を引いている所が。
表向きは、フレンドリーでマイペースで、明るい人。でもきっと彼女の奥底には、なにか、俺達には計り知れない、黒い部分がある。誰にも見せない、誰にも触れさせない、彼女の、弱い部分。
「さてと、では本題に入ろうか、福良拳君」
二本目の煙草も灰皿に押し込み、彼女は手摺を背にもたれ掛かった。いつものようなぴー君呼びではなく、福良拳というフルネームで俺を呼んで。
彼女が福良拳とフルネームで言った瞬間、彼女を纏う空気が変わった。さっきまでのへらへらしていた空気から一変、ぴりっと張り詰めたような空気がベランダを包み込む。
朝日は、まだ昇りそうにない。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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