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 初めて見た目だった。奥底まで黒で塗りつぶしたような、暗い闇をそのまま映しているような、そんな目だった。その目に俺は、映っているようで、映っていない。



「……このベランダに通じる窓には鍵がかかっていなかった。いつも開けているのかい?」

「え、あ、はい。洗濯物とかよくここで干すんで、階もかなり上だし、大丈夫かなって」

「そうか」



 すぐにあの深海のような目は無くなった。いつもの、全てを見透かしているかのような鋭い眼光に戻る。さっきの目は、一体なんだったのだろうか。



「3号室の人との面識は?」



 そう言って彼女は親指で隣を指差した。煙が吐き出され、風にのってやってきた煙草の香りが、鼻腔を擽る。その香りについ手の甲で鼻を押さえてしまった。

 服に染み付いた匂いや、部屋に漂っている匂いとかならまだ大丈夫なのだが、直接嗅ぐ煙草の香りにはまだ慣れない。昔煙草を一本だけ吸ってみたことがあるが、匂いがどうしても駄目で、途中で断念したほどだ。



「煙草、嫌いなのか?」

「嫌いというか、匂いが苦手で」



 俺の言葉に、彼女は驚いたように目を見開いた。すると突然、彼女は煙草の火を消すのもそこそこに部屋の中に戻り始めて、次に驚くのは俺の番だった。すれ違い様に、染み付いたバニラ風味の煙草の香りが、鼻を掠める。

 俺も部屋に戻ると、神津さんは色んな部屋を行ったり来たりしていた。家賃がお高めだからか、ここの部屋はリビングの外に三個程ある。次いでトイレ、浴室だ。



「……どの部屋からも、匂うな」



 その全ての部屋を確認すると、最後に入った寝室からぶつぶつと何かを呟きながら、彼女が出てきた。その手には、この家では見慣れない物が握られている。



「それ、煙草、ですか?」



 神津さんが手にしていたのは、先がぐしゃっと折れ曲がった煙草だった。さっき神津さんが口にしていたものとは、また色が違う。彼女の吸っていた煙草は白かったが、今手にしているそれは、茶色だった。こげちゃ、かもしれない。







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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白菜 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年6月9日 19時

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