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突然のフルネーム呼びに咄嗟に返事をしてしまったが、仕事の話って一体なんだ。そう思いながら振り返ると、神津さんは早速ソファーに座って左足を上に足を組んでおり、この体制の時は仕事モードだと伊沢さんが言っていたような気がする。
彼女に促されるまま正面のカーペットの上で正座をし、次の言葉を待つ。背中には未だに川上さんの視線がぶっ刺さっていた。
「その様子だとなんの話か分かっていないね?依頼の話だよ。今の君には私に依頼したい内容があるだろう?しかも、沢山」
「え……」
「例えば、四日前にも起こったUSB紛失事件についてとかね」
この人は、全てを知っている。俺が最近、物をよく無くすことに自分自身も困り果てていることに。
「事件の概要について教えてくれるかい?」
「わ、分かりました」
始まったのは、実はここ最近ではない。頻繁に物が紛失するようになったのは、今から一ヶ月程前。丁度、外出時に度々何者かの視線を感じるようになった時期と、同じだった。
最初に無くなったのは、その日なんとなくつけようと思ったブレスレットだった。以前友達にプレゼントされたもので、掃除をした際に発掘したのでどうせならオフィスにつけていこうと思ったのだ。
なのに翌日、机の上に置いていた筈のブレスレットが無くなっていた。どこを探しても見つからず、気づかないうちにどこか別の場所にしまってしまったのだろうか、と結局そのブレスレットを探すのは諦めた。今もまだ見つかっていない。
「君は確かに机の上に置いたんだね?」
「その筈なんですけど、もう大分前なので確かな記憶とは言いがたいです。あ、でも」
そこで区切り、俺は彼女にとある写真を写したスマホの画面を見せた。そこに写っているのは、机の上に確かに置かれた仕事の書類。この写真は、あまりの無くなりように自分の脳が老化し始めているのではと危機感を感じ、絶対に忘れないようにと撮ったもの。
「これは無くなったのかい?」
「いえ、それがこの時だけは無くならなかったんです」
「ほーん」
そうなのだ。こうして写真を撮ったときに限って、無くならない。決まって同じ机に置かれた物が無くなるのだが、こうして写真を撮ると、写真を撮った物は無くならないのだ。写真を撮った物は。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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