事件No.2 ページ14
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「―――なあああい!!」
ある日の正午。
穏やかな時間の流れていたオフィス内に、悲痛な叫びにも似たそんな声が響き渡った。正体は俺、渡辺航平である。
ソファーの下、机の下、カーペットの下、部屋の隅、ゴミ箱。様々な所を念入りに探すが、お目当ての物は全く見つかる気配が無い。
くっそう、あれが無いと今度こそ川上さんに怒られる。これで何回目やねん、って、流石に優しい川上さんも般若を召喚してしまう。
「どうやらお困りのようだね、なべ君よ」
「あ、神津さん!そうなんですよぉ」
周りの目も憚らず、床に這いつくばって探し物をしている俺の背後から、少しハスキーな声の女性が話しかけてくる。体を起こして振り返ると、そこには二週間程前にこのオフィスに専属探偵としてやって来た、神津Aさんが立っていた。開けた窓から流れ込んでくる風が、紫のメッシュが入った彼女の髪を揺らす。
俺や山本さんは特に彼女に対して強い警戒心は抱いていないが、河村さんや福良さん達はあまり彼女に近づきたがらない。用事も大抵俺や山本さんを介してだし、彼等と彼女が直接会話をしている所はここ二週間で一、二回見たかどうかだ。
「君が何を探しているのか、当ててあげようか?」
「え、そんなこと出来るんですか?!」
「あたぼーよ。これでも私、名探偵だからさ」
けど俺はどうしても、この人が悪い人には見えない。
確かに仕事とかしていると、このオフィスの空き部屋で寝泊まりしているという彼女に絡まれたり、コンビニに行くというとしれっとアイス奢らされたりするけど、根が悪い人かと聞かれれば、そうは思わない。
周りの変化にはすぐ気づいてくれるし、実はさりげない気遣いもしてくれているし、こうしてちょっとした探偵芸も見せてくれる。本人曰く、サービス無いと契約切られちゃいそうじゃん、とかなんとか言ってたけど。
「さてと、ではかっこよく、ビシッと一発で当ててあげよう。君が無くした物は、仕事用のUSBだ」
「えぇすっご!当たりです!え、なんで分かったんですか?!」
「ふっふっふっ、ならば種明かしをしようか」
鼻高々にそう言う彼女の話を、ワクワクとしながら待つ。この時だけは完全に、USBを探していたことが頭から抜け落ちていた。
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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)
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