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「駄目だよぉ、君。こんな包丁じゃ、君の愛は臓器にすら届かないよ?それに、まず狙いが駄目ね。愛が憎しみに変わって殺す決断したならさ、」



 ―――ここ、でしょ。彼女の言葉と共に、包丁の柄の部分が心臓にトン、と当てられる。その瞬間、背中を這うような恐怖が、身体中を駆け巡った。この人は、神津さんは一体、何者なんだ。

 足から力が抜けて、その場に座り込む。血塗れの包丁をカシャンと地面に落とすと、彼女は淡々とした動作でスマホを取り出し、警察に電話をし始める。スマホは、勿論血塗れだ。



「大丈夫かいしーたく。いやー、間に合って良かったよ」



 警察が女性を連行していき、手を応急処置してもらった彼女が、座り込んだ俺の前に綺麗な方の手を差し出してくる。包丁を素手で止めた手は、今は包帯でぐるぐる巻きだ。



「な、んで……」

「ん?」

「なんで、ここに」



 最初に口をついて出たのは、心配でも、労りの言葉でもなかった。ただ、疑問に思ったことが、無意識の内に口から飛び出していた。
 そんな俺を見つめ、やがてふっ、と笑顔を浮かべると、彼女は徐に口を開いた。



「言っただろう?私が帰れるのは、君がちゃーんと家に入るのを見届けてからだと」



 彼女はそう言って、俺の右手を掴んで引っ張る。思いの外強い力に安心感を感じながら立ち上がると、神津さんは直ぐ様此方に背中を向けた。



「さぁ、これで事件は解決。請求書は後日発送するから、今日はゆっくり休みな。じゃあね、伊沢拓司君」



 呼び方が、変わった。その瞬間脳裏を過る、終わりの文字。



「っあの、神津さん!」



 嫌だと、思ってしまった。彼女に怪我を追わせてしまったのに、お金を払ってはいさようならは。ちゃんとしたお礼を、したかった。
 彼女が俺の声に、緩慢な動きで振り返る。ん?と僅かに口角を上げた神津さんに、俺は言った。



「……今度、一緒に食事とか……行きませんか」



 長い長い沈黙。やがてそれは、彼女の吹き出す声によって破られた。



「あっはは!依頼人からそんなお誘いを受けたのは初めてだ。良いね、面白い。行こうじゃないか」

「っありがとうございます!」



 ―――変人で、ヘビースモーカーで、非常識で、言葉上だけでは、良いとこなんて無さそうなのに。気づけば俺は、そんな彼女との関係が終わることを、心のどこかで嫌だと思ってしまっていた。

 彼女との関係を、この先もまだ、続けたいと思った。




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白菜(プロフ) - 河良紅好さん» ご報告ありがとうございます!助かりました!早急に修正させて頂きます! (2020年6月16日 22時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
河良紅好(プロフ) - はじめまして、陰ながら白菜さんの作品を楽しく拝見させて頂いてます。大変失礼ですが、事件No.5の2ページ目の「マーキング」が「マーケティング」になっていました事をご報告させて頂きます。 (2020年6月16日 21時) (レス) id: a18b40da37 (このIDを非表示/違反報告)
るーと - この作品を読むのが最近の密かな楽しみになっています。ご無理をなさらない程度に更新頑張ってください!これからも楽しみにしてます! (2020年6月12日 21時) (レス) id: 300feac1d8 (このIDを非表示/違反報告)
餅兎(プロフ) - 遅ればせながら新作ありがとうございます…! Twitterで設定をお見かけして以来ずっと心待ちにしておりまして、余りのことに学校滅ばねえかなとまで考えておりました。早速背筋の凍るような展開にゾクゾクしております、更新頑張って下さい。 (2020年6月11日 20時) (レス) id: 10f5dc34bc (このIDを非表示/違反報告)
神木(プロフ) - 占ツクを開くたびに更新されてないかなーって確認するくらい更新とても楽しみに待っています!更新頑張ってください! (2020年6月11日 16時) (レス) id: ded004bcdf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白菜 | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年6月9日 19時

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