[英・切微甘] お菓子よりも ｰ男性目線ｰ ページ1
キーンコーンカーンコーン……
下校の時刻を知らせる聞きなれたチャイムと混じって
誰かが自分を呼ぶ声がする。
あれは……
俺は振り返りざま思考を張り巡らせる。
貴｢アーサー！｣
A……。
綺麗な黒髪に優しい笑顔、そして鈴の鳴るような声。
いつみても見惚れてしまうほど彼女は綺麗だ。
そんな彼女が俺に何の用だろう。
｢A……？｣
名前を呼ぶと、少し頬を赤らめる。
ほんとに可愛いなこいつ///
貴｢えへへ、あのね、手伝ってほしいことがあるの！｣
そう、はっきり彼女は言った。
俺は意味を図りかねて聞き返してしまう。
｢手伝ってほしいこと？｣
いったい…………何を？
貴｢うん！｣
彼女は頷くや否や俺の手を引いて歩き出す。
…………
って俺がエスコートされているみたいじゃねーか？！
かといって折角伸ばしてくれたAの手を振りほどきたくもない。
うぁぁーっっ…！！
俺はどうしたらいいんだよっ………！！！？
結局俺は苦悶するまま何も出来なかった。
当のAはそんな俺の気持ちを知りもしないで
涼しい顔をしている。
俺がその横顔に見惚れていると、Aはふいに立ち止まった。
………家庭科室、か。
中からほんのりといい匂いがする。
｢手伝いって……｣
貴｢そう。わたしお菓子作ったの！一人で食べきれないし、アーサーに食べてほしくて｣
少し顔を赤らめて困ったように笑う。
自然に口が動いていた。
｢甘いお菓子？｣
貴｢え、うん！そうだよ？｣
ふうん、俺はそう言ってAの頬に触れた。
いったい、俺は何してんだ。
なんだかよくわかんねー。
貴｢え…｣
｢だからお前から甘い香りがしたんだな｣
そう言って、彼女の唇に軽く触れるキスをする。
やっぱり、甘い。
貴｢アーサー…？｣
Aは俯いていた。
少し強引だったか。
｢ごめん｣
貴｢う、ううん。大丈夫｣
ほら、またかわいい顔…
｢お前が悪いんだぜ？…その、かわいい顔するから｣
貴｢えっ｣
ほんと何言ってんだ俺？！
殆どこんな告白みたいなものを……！
後の祭りとはこのことだ。
｢な、何でもねー！気にするな｣
貴｢う、うんわかった！！｣
彼女のほっとしたような表情を見て
俺は確信していた。
俺の片想いは実ることはないこと。
そしてもうひとつ。
彼女を見守ることこそ、
俺のするべきことだと。
彼女が幸せなら、それでいい。
俺は、そう思う。
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