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37.欠けた花弁 ページ37

私の唇に触れていた杏寿郎の指が



 ゆっくりと離れていく。




 名残惜しそうに見つめるその瞳が、



 月と太陽を重ねたようなその綺麗な瞳が、




 私の心を掻き乱す。






 杏寿郎は身体を起こすと私に手を差し伸べた。




 
 私がその手を取り、身体を起こした時、





 何かが畳へ落ちる音がした。






「あ…」





 目に飛び込んだのは





 


 花弁が欠けてしまった




 大好きな人からもらった大切な桔梗の簪だった。






「どうして…」






 そうか…




 きっと私の心の乱れに気づいて




 悲しんでいるのね…






 そっと壊れてしまった簪を手に取ると、




 熱くなっていた私の手は簪に触れたところから




 次第に冷えていく。






「A、それ、貸してごらん?」





「え?」





 杏寿郎は穏やかな表情で私を見つめていた。





「君の大切なものなのだろう?



 大丈夫、無くしたりはしないから、



 少しだけ俺に預けておいてはくれないか?」




 
 もう欠けてしまってどうにもならないこの簪を


 
 杏寿郎はどうするというのだろう。



 寂しい気持ちのまま、



 私は彼の大きな手の平の上に優しく簪を置いた。







 杏寿郎は簪に向けていた目を私に移すと




 もう片方の手で



 まるで子をあやすような優しい手つきで私の頭を撫でた。

 



「さて、そろそろ眠りにつこう。」





 彼は丁寧に簪を机の上に置くと、寝床を整え始めた。





「君は俺の部屋で寝るといい。」




「え…?杏寿郎はどうするの?」




「俺は居間で適当に眠るから心配はいらない!」




 そんな!申し訳ない。



「それなら一緒に…」



 そう口走った自分は何も深く考えてはおらず、


 言いかけた途中で大それたことを言いそうになったと


 気づいて、思わず口元を手で押さえた。



 

 恥ずかしい…




 さすがに小さな子どもではないのだから




 いくら友達だからといっても




 もう体つきは互いに大人の男と女。




 それについ先程、杏寿郎に指摘されたばかりではないか。








「どうした?耳が赤いぞ?」




「な、なんでもない…!


 私が居間で寝るからあなたはここで…」




 杏寿郎は私の肩に手を置いて困ったように笑った。
 




「君が風邪を引いてはいけない。


 今回は甘えてはくれないか?」





 その顔に私は弱い…




 私は首を縦に振った。

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - ハウンさん» ハウンさん、こちらこそお読みいただきありがとうございます!引き込まれると言ってくださり大変光栄です!続編も更新しましたので、引き継ぎお楽しみいただけるよう頑張りますね! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» misakimiさん、ありがとうございます!まっすぐな煉獄さんの深い愛情が表現できていれば…と思います。これからもそんな彼を言葉だけではなく、仕草や態度での表現ができるように努めたいところです! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
ハウン(プロフ) - 素敵な作品を作っていただきありがとうございます!ものすごく感情移入してしまって胸が締め付けられるくらい引き込まれました!続編楽しみにしてます! (2022年2月28日 23時) (レス) id: 065a2165a6 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 今日も煉獄さんが素敵だ。押し付けがましいところは一切なく、ただただ彼女の幸せを願い笑顔を作れる彼は本当に素敵。 (2022年2月28日 21時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 彼はあまり内緒話など出来なさそうですよね(笑) 巧いだなんて言っていただけて…嬉しすぎて今夜は幸せな気持ちで眠れそうです〜!いつもありがとうございます。 (2022年2月26日 21時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年2月5日 21時

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