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35.真紅 ページ35

「彼ができなかった分、

 私はたくさん生きて

 いつか黄泉の国で会った時に

 お土産話をいっぱいしたいのです。」



 槇寿郎様の濡れた瞳に映る


 真紅の瞳の私もまた、涙を流していた。



「たくさんの人が親切にしてくれたよって…

 美味しいご飯の話も、少しずつ変わりゆく世の話も…

 ちゃんと…ちゃんと幸せに生きたよって…」




 溢れる涙は浴衣を濡らしていく。




 すると不意に大きな身体に包まれた。




 力強くて少し苦しいけれど、


 あたたかくて…



 私は静かに頬を濡らす。





 



 小さな声だったけれど、その時確かに聞こえた。



 
 何度も何度も…



 愛する人の名前を呼ぶ優しい声が



 私には確かに聞こえた。








「父上、Aを見ま…」




 そう言いながら、


 開いた障子から入ってきたのは杏寿郎だった。






「えっと…父上…?」




 戸惑う杏寿郎の声に


 槇寿郎様はすぐさま私から身体を離した。





「あっ…!杏寿郎、これには訳があって…」





 杏寿郎は静かに私に歩み寄って顔を覗き込むと、


 何かを察したのかそれ以上は聞かなかった。








「…出て行ってくれ。」




 そう言葉をこぼした槇寿郎様は、


 再びこちらに背を向けて褥に横になってしまった。





「失礼しました。」





 杏寿郎は私の手を引くと、足早に歩き始めた。




「杏寿郎…?」




「A、少しだけ良いだろうか?」




「はい…」






 手を引かれたまま杏寿郎の部屋へと入ると、


 杏寿郎はここに座るようにと


 畳を優しくトントンっと2回叩いた。




 私が腰を下ろすと


 杏寿郎は眉を下げて微笑みながら口を開いた。





「父上のあのような表情、俺は初めて見た。


 君には少し心を開いてくれているようだ。


 ありがとう。」




「そんな!私は何も…」




「しかし初めは驚いたがな!

 誰が誰を慕おうと自由だが…A、さすがに父上は…」




 ん?あれ…?何か盛大に勘違いされている?




「ふふ。」



「なんだ?俺は真剣だぞ!

 さすがに同期と父上では複雑だな…

 それに君は俺と同い年だしな…

 しかし尊敬する父上の決め事なら…

 いや!だが…」




「杏寿郎」






「杏寿郎…?」




 顎に手を当てて悩む杏寿郎は


 私の声など全く聞こえないようだ。



 

 私は両手で彼の頬をつまんだ。





「杏寿郎の…馬鹿。」

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設定タグ:煉獄杏寿郎 , 鬼滅の刃 , 夢小説   
作品ジャンル:アニメ
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狐姫(プロフ) - ハウンさん» ハウンさん、こちらこそお読みいただきありがとうございます!引き込まれると言ってくださり大変光栄です!続編も更新しましたので、引き継ぎお楽しみいただけるよう頑張りますね! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» misakimiさん、ありがとうございます!まっすぐな煉獄さんの深い愛情が表現できていれば…と思います。これからもそんな彼を言葉だけではなく、仕草や態度での表現ができるように努めたいところです! (2022年3月1日 22時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)
ハウン(プロフ) - 素敵な作品を作っていただきありがとうございます!ものすごく感情移入してしまって胸が締め付けられるくらい引き込まれました!続編楽しみにしてます! (2022年2月28日 23時) (レス) id: 065a2165a6 (このIDを非表示/違反報告)
misakimi(プロフ) - 今日も煉獄さんが素敵だ。押し付けがましいところは一切なく、ただただ彼女の幸せを願い笑顔を作れる彼は本当に素敵。 (2022年2月28日 21時) (レス) @page50 id: cb1d4026ae (このIDを非表示/違反報告)
狐姫(プロフ) - misakimiさん» 彼はあまり内緒話など出来なさそうですよね(笑) 巧いだなんて言っていただけて…嬉しすぎて今夜は幸せな気持ちで眠れそうです〜!いつもありがとうございます。 (2022年2月26日 21時) (レス) id: 12299479a5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:狐姫 | 作者ホームページ:https://mobile.twitter.com/kohime_yume  
作成日時:2022年2月5日 21時

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