#140『比率2:3』 ページ5
「中島さん、僕と貴方は違うんです」
「人は60%の事は遺伝、残りの40%は幼い頃の環境で決まります」
敦はベンチに座り直し朔の話を聞いた。
敦には朔が言いたいことが分からない。でも、過去が太宰と同じく不明の朔が口を開いたのだ。
もう少し聞いていよう。
「中島さんと僕の育った環境は殆ど変わりません。
院長先生が貴方を思っていたとはいえ、貴方は暴力をふるわれていた。
一方僕も同じようなものを受けていた。
貴方は親の顔を知らない、僕も知らない」
「殆ど同じ環境の筈ですよ」
朔は淡々とした口調のまま敦に語る。
敦はこの話を理解しようが無かろうか別にどうでもいい。
ただ、ちょっとした自分の愚痴を聞いて欲しいだけ。同じような地獄で育った者だから。
「なのに何故こんなに貴方は違うのでしょうか」
同じような環境なのに、同じような境遇なのに敦は朔と違って光り輝いている。
『生』に固執し必死に生きている。
『死』に魅入られている朔とは違って。
「ここで論理的に考えて導き出される答えは一つ。
朔が何を言いたいのか分からない敦は黙ったまま聞く。
「まあ、僕は・・・・・・」
初めて朔の声調が崩れた。まるで迷子の子供のような、親が見つからなくて泣いている子供のような。
「『遺伝のせい』という言い訳に逃げたいだけなんですよ。そんな最低な人間。それが僕です」
朔の泣きそうな顔に敦は息を飲む。
敦は朔の色んな表情を見てきたつもりだった。
『笑った』顔、『驚いた』顔、『嗤った』顔、『怒った』顔。
でも『泣いた』顔だけは見た事は無かった。
同じ年なのに何処か大人に思えたのはその性かも知れない。
「・・・・・・朔くんは最低な人間じゃないよ」
敦は朔の小さい背中を撫でる。
昔幼子にしたように優しく。
「それに前乱歩さんが『意志が無い欠落した人間だ』て言っていたけど僕はそうわない」
朔の目が見開かれる。
「どうしてですか?」
「朔くんは『話そう』と自分の『意志』で話してくれた。朔くんは僕を助けてくれた。
笑顔で話しかけてくれた。だから僕は君を最低な人間だとは思わない」
こんな理由だけどいい、と敦は優しく微笑んだ。
・・・・・・僕が本来励ますのが普通の場面でまさか、励まされるとは。
朔はありがとう、と言うと微笑み返した。
朔が自分が間諜だと忘れる事ができたこの時間は後々朔を蝕んで行った。
146人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
飛沫(プロフ) - ゑごまさん» コメントありがとうございます。この作品を好きになってくれて嬉しいです!!他の作品も・・・・・・感無量です。今日で定期考査も終了するので随時更新を再開したいです!!ゑごまさんも体調にお気をつけて下さい。 (2020年7月31日 7時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
ゑごま - 初コメント失礼します。この作品大好きで、最近また最初から読み返してます。飛沫さんの他の作品もよく読ませてもらってます!こんな大変な時期ですが更新頑張ってください!お体にも気を付けて! (2020年7月30日 22時) (レス) id: da1fba78c8 (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 雪月さん» コメントありがとうございます。面白いと言っていただきとても光栄です!!期末が終わったら更新が再開出来る筈なので少しお待ち下さい!!これからもご愛読お願いいたします! (2020年7月13日 21時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
雪月(プロフ) - 入社試験の方も読ませていただきました!面白いですね!忙しいかもしれませんが、更新頑張ってくださいね! (2020年7月13日 0時) (レス) id: f9f48108ec (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 朱鷺の砂さん» 読んで下さりありがとうございます。今学業の方が忙しく中々更新が出来てませんがどうぞよろしくお願いします。 (2020年7月2日 20時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:飛沫 | 作成日時:2020年5月1日 13時