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#139『僕の話をしようか』 ページ4

朔は敦に花束を渡した。

敦は花束を受け取るとそれを思いっきり抱き締めた。

包み紙がクシャと音を立てるが敦は気にしなかった。本当は院長先生が渡してくれる筈だった物。


朔は何も言わず敦の隣に腰かけた。

・・・・・・失ってから大切なものに気付くとは良く言った物です。









「少し僕の事を話しましょう」

夕闇が降りてきた頃朔は口を開いた。

敦の紫と黄色のグラデーションの瞳が朔を映した。

朔無表情だった。悲哀も怒りも喜びも何も感じられない底なし沼のような。

「僕はスラム街でひっそり佇む教会で育ちました。

そこは中島さんが居た孤児院のように孤児が沢山いました。

そして、院長先生ではなくシスターが居ました。

僕はそこ虐められていました」


他人事のように話す朔に敦は恐怖を覚えた。

こんなにも人は自分に無関心になれるのだろうか、こんなにも淡々と生い立ちを話せるものだろうか。


敦がむける畏怖の視線に朔は悲しそうに微笑むと左腕を覆っている手甲を外した。


敦は息を飲んだ。

朔の腕には数々の傷が刻み込まれていた。

刺傷の上にさらに蚯蚓脹れが縦横無尽に走っている。そして、肘から先全体に大きな火傷の跡。


「・・・・・・これは」


言葉を発する事ができない。

朔はズボンを捲った。左の太腿に付けられた大きな切り傷。刃物でやられたものだろう。

「これは失血死の1歩手前までいきました」

朔は苦笑いを零した。

「・・・・・・誰にやれれたの?」

透き通りそうな程の美しい肌にある傷たちを敦は凝視した。

「孤児の子供たちにですよ」

「シスターは?」

「見て見ぬふりですよ」

朔は顔面蒼白の敦の顔を覗き込んだ。

「でも僕は中島さんより幸福な人間ですよ」


「何処が?こんな傷を付けられたのに?」


敦は怒っていた。朔に大量に傷をつけた子供達に、傍観者のシスターに、そして何より自分の事を大事に思わない朔に。


「朔は自分の事が大切じゃないの!」


一度言った敦は自分を止められなかった。

朔の曲がった性根を叩き治してやろうとした。


「大切じゃ無いですよ」


一気に敦の熱が冷めた。

敦は何も言えなかった。

#140『比率2:3』→←#138『歪んた父子』



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飛沫(プロフ) - ゑごまさん» コメントありがとうございます。この作品を好きになってくれて嬉しいです!!他の作品も・・・・・・感無量です。今日で定期考査も終了するので随時更新を再開したいです!!ゑごまさんも体調にお気をつけて下さい。 (2020年7月31日 7時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
ゑごま - 初コメント失礼します。この作品大好きで、最近また最初から読み返してます。飛沫さんの他の作品もよく読ませてもらってます!こんな大変な時期ですが更新頑張ってください!お体にも気を付けて! (2020年7月30日 22時) (レス) id: da1fba78c8 (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 雪月さん» コメントありがとうございます。面白いと言っていただきとても光栄です!!期末が終わったら更新が再開出来る筈なので少しお待ち下さい!!これからもご愛読お願いいたします! (2020年7月13日 21時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
雪月(プロフ) - 入社試験の方も読ませていただきました!面白いですね!忙しいかもしれませんが、更新頑張ってくださいね! (2020年7月13日 0時) (レス) id: f9f48108ec (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 朱鷺の砂さん» 読んで下さりありがとうございます。今学業の方が忙しく中々更新が出来てませんがどうぞよろしくお願いします。 (2020年7月2日 20時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:飛沫 | 作成日時:2020年5月1日 13時

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