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#146『会ってみたかった』 ページ11

夜、静かな裏路地に咳の音が響いた。

肺が焼けるように痛む。

その痛みを堪えながら芥川龍之介は覚束無い足取りで壁をつたいながら歩いた。


敵組織の殲滅で負った傷から血が淋漓する。

太宰に認められたい、その思いだけが今の芥川を着き動かしていた。


その時膝から力が抜け落ちた。


芥川は壁に体を預け、座り込んだ。

ひっそり自分は朽ちていくのだ。芥川は自嘲することしか出来なかった。


「大丈夫ですか」


意識が飛びそうになった時、何処から声がした。

敵か、朦朧としていた芥川の意識が一気に覚醒した。

芥川は周りを見渡す。空耳か、否確かに聞こえたはず。


その人は向かいの建物の屋根に座っていた。

満月の逆光で顔はよく見えないが、確かに人が居る。

その飄々とした雰囲気に姿、全てを見通しているような口調。

まるでかの人――――太宰治のようだった。

太宰と初めて会った頃を回顧させた。


「大丈夫ですか?」


今度はすぐ近くでその声が聞こえてきた。芥川は我に返った。

すぐさま、異能を使おうとするが体力の限界を突破していたため出来なかった。

芥川は最期の抵抗で思いっきり睨みつけた。

その人はふっと微笑んだ。

その人の動作全てに太宰治を思わせた。


「誰だ」


芥川の言葉にその人は帽子を脱いだ。

真っ赤な髪が宙を踊り月の光を反射させた。


「初めまして、武装探偵社社員の萩原朔と申します。芥川龍之介さんですよね」


武装探偵社、この言葉に芥川さらに警戒を強める。自分を逮捕するつもりか。

芥川の考えを汲み取ったのか朔は、


「貴方を軍警に突きだそうなんて愚直な事なんて考えておりませんよ」

と弁明した。


「武装探偵社が何の用だ」


「探偵社とは関係ありませんよ。これは僕の独断行動です。貴方に会いたいと思いまして」


嫌味なほど丁寧な口調の奴だ、芥川は思った。


「何の用だ」


「否、昼間貴方の妹――――黒蜥蜴の銀さんに会ったんです」


「銀になにかしたのか」


芥川の殺気が一段と膨れ上がった。


「やはり、『腐っても人間』ですね」


朔は悲しそうに笑った。

#147『密会』→←#145『腐っても人間』



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飛沫(プロフ) - ゑごまさん» コメントありがとうございます。この作品を好きになってくれて嬉しいです!!他の作品も・・・・・・感無量です。今日で定期考査も終了するので随時更新を再開したいです!!ゑごまさんも体調にお気をつけて下さい。 (2020年7月31日 7時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
ゑごま - 初コメント失礼します。この作品大好きで、最近また最初から読み返してます。飛沫さんの他の作品もよく読ませてもらってます!こんな大変な時期ですが更新頑張ってください!お体にも気を付けて! (2020年7月30日 22時) (レス) id: da1fba78c8 (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 雪月さん» コメントありがとうございます。面白いと言っていただきとても光栄です!!期末が終わったら更新が再開出来る筈なので少しお待ち下さい!!これからもご愛読お願いいたします! (2020年7月13日 21時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)
雪月(プロフ) - 入社試験の方も読ませていただきました!面白いですね!忙しいかもしれませんが、更新頑張ってくださいね! (2020年7月13日 0時) (レス) id: f9f48108ec (このIDを非表示/違反報告)
飛沫(プロフ) - 朱鷺の砂さん» 読んで下さりありがとうございます。今学業の方が忙しく中々更新が出来てませんがどうぞよろしくお願いします。 (2020年7月2日 20時) (レス) id: 5cd376c69b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:飛沫 | 作成日時:2020年5月1日 13時

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