9話 ページ9
丹緋は、徐に下ろしていた左腕を胸の前に持ち上げる。
袖口にもう片方の手をかけ、ゆっくりと捲る。
すると、中から黒く変色した腕が出てきた。
黒い、といっても日焼けの範疇ではない。
完全な漆黒。
影の様に塗りつぶされていて、禍々しい雰囲気が漂ってくる。
「…て、手がっ」
「…俺に触れたらあんたは死ぬ。
"禁忌の子には近寄るな"って、村の人間に言いつけられていないのか?」
「え、し、死ぬの…?
その…
よ、よく分からないけど…
丹緋さんの言う村は、この辺にはないかな…ここ、そんな田舎じゃないし。」
「…………は?
……………ここはどこなんだ?
お前、あの祠から俺をどうやって連れ出した?」
「ほ、祠?ゴミ捨て場じゃなくて??」
全く話が通じないせいで、お互い首を傾げるばかりだ。
やっぱりここは、警察を呼んだ方が良いのかもしれない…と携帯に手を伸ばす。
その時、ふと目の前の丹緋が両腕を胸の前に重ね、自分の体を抱いた。
「…………ここは、あの村じゃないのか。」
震えた声と縋るような目で聞いてくる丹緋に頷いて見せると、丹緋はそのまま視線を落とした。
「なら、もうどこでもいい…
あの村の長や、村人ども…
あの気色の悪い神官の顔を見なくていいなら…
ここがどこだろうと構わない…」
「………丹緋さん…?」
それっきり、丹緋はまた黙り込んでしまった。
私は、そっと拾い上げた携帯をまた元の場所に戻した。
彼は恐らく、私には想像もつかないくらい、壮絶な過去を経験したのだろう。
出会った時の丹緋の様子とは一変して、今は何かに怯える子犬のように小さく体を丸めている。
そんな人をまた知らない場所に連れて行くのは無神経なことのように思えてきて、ひとまず警察に連絡するのはやめることにした。
…この決断が後にどう響くのか分からないが…
とにかく、今日はこのままそっとしてあげた方がいいと、そう思ったのだ。
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作者名:他人の空似 | 作成日時:2023年11月17日 23時