8話 ページ8
私は、そのまま彼から離れ、台所に向かった。彼はしばらくその場を動かなかったが、やがて私を警戒しながらも言われた通りにソファーに座った。
冷蔵庫から蜂蜜とレモン汁を取り出してマグカップに注ぐ。
そこにお湯を入れて、レモネードを作った。
彼にだけ用意すると怪しまれそうだったので、自分の分も作って、リビングに戻る。
彼は終始私を見つめていたが、戻ってきた私が何か持っていることに気づくと、そちらに視線が移る。
一つのマグカップをソファーに座る彼の元へ、もう一つは、私の手元に残す。
「…………」
じろり、と鋭い視線がマグカップを刺す。
一向に手を付けない様子を見て、やっぱりか、と小さくため息をつく。
無理に飲ませてもきっと飲んではくれないので、自分のも口に入れながら、それとなく「毒はないよ」とアピールをしつつ、彼に話しかける。
「私は、ともか。
…えっと、灰原ともか、です
あなたの名前は…?」
「……………」
つい、とマグカップからこちらに視線が移る。
特に何の反応もなく、私の顔を見つめながら、黙り込む彼。
何か考えているのだろうか。
…しばらく無言を貫いた後、ゆっくりとその口が開かれた。
「……………………丹緋。」
……たんひ。
とオウムのように彼の言葉を繰り返す。
もしかして、それが名前…?
日本人の名前とは少し違う響きだ。
もしかしてここら辺の人じゃないのかも…
たんひ…、丹緋さん。
「…素敵な名前ですね。」
と答えると、
丹緋は元から訝しげだった表情をさらに歪ませた。
……んっ、私変なこと言った…?
「…はっ…素敵………?」
丹緋は自嘲するように鼻で笑った。
「…この名前がか?
お前は、ほんとに何も知らないんだな。」
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作者名:他人の空似 | 作成日時:2023年11月17日 23時