6話 ページ6
ふと、すぐ隣で肩を揺らしたその人は湯気を見た瞬間、わずかに眉を顰め、声を振るわせた。
「……ッ焼印…」
「や、焼印!?
物騒な…!そんなことしませんし、そもそもそんな物もありません!
貴方、暖かいおふ…えっと、水浴び。
…したことないんですか?」
「………」
…沈黙。
ということは肯定かな。
暴力を受けて、なおかつ、暖かい風呂に入ったことがないのか…
つくづくこの人が置かれていた境遇には、胸が痛くなる。
とにかく、入ったことがないのだったら、風呂は今回はなしにして、ぬるめの水で体だけ流してもらおう。
私は風呂場に入り、シャワーの蛇口を捻った。
キュ、と言う音と共にシャワーヘッドから水が流れてくる。
「じゃあ、私はさっきの部屋に戻ってるから、身体が綺麗になったら……ちょッ‼︎」
くるりと後ろを振り返り、その人の姿を視界に入れた瞬間、直ぐに別の場所に目を逸らした。
私の目に飛び込んできたのは、紛れもない色白の男性の裸体だった。
幸運なことに、色々と見えてしまう前にすぐに視点を変えたのではっきりと目に映ることはなかった。
いつの間に服を脱いでいたのか、彼から目を逸らした先には、先程まで来ていたはずの服が散乱していた。
髪が長いので女性かと勘違いしていたが…ここでようやく、彼が男の人であるということが分かった。
「きっ、キレイニナッタラ、コレデカラダヲフイテ、ソコノフクニキガエテネッ‼︎」
私は早口でそう言い捨て、逃げる様に風呂場を後にした。
彼はそんな私を終始不審そうに見ていたが、やがて言われた通りにシャワーを浴びに行った。
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作者名:他人の空似 | 作成日時:2023年11月17日 23時