3話 ページ3
「…………え…?」
あたりに静寂が訪れ…月明かりに照らされたその人の体をまじまじと見つめていた私は、思わず自分の口を手で覆った。
ただの布地を纏った様な簡素な服と、その上を靡く、腰くらいまで伸びたボサボサで艶のない黒髪。そこから覗くのは、痩せこけた頬と骨が浮き出るほど細い手足。
青白い肌には対照的な赤黒い打撲痕が、いたるところについており、目につくところだけでも数十ヶ所も見つかった。
ひどい…なに、これ…
この人がどこの誰なのかは知らないが、それはそれは酷い仕打ちを受けてきた人なのだと、馬鹿な私でもすぐに悟った。
誰かにやられたのだろうか、それとも、あの保健所に収容されていたわんちゃんのように、日常的に暴力を振るわれていたのだろうか…
今すぐにでも救急に連絡を入れたいが、先ほども言った通り、今は手元に通信手段がない。
かといって、このままこの人を置き去りにして帰ってしまうこともできなかった。
ひとまず私は道路脇に置いていたゴミ袋を所定の場所に置き、倒れたその人をおんぶして自宅に連れていくことにした。
運動音痴で非力な私だったが、驚くことに軽々と背負い込むことができてしまった。
…これ、生きている人間の重さじゃない。
それに気づいて、私は1人戦慄しながらも、足早に自宅に向かった。
得体の知れない人物。
超次元的な何かを目の当たりにし、尚且つ自分がそれに巻き込まれそうになったのに。
…理由は分からないが、助けてあげたいと、そう思ってしまったのだ。
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作者名:他人の空似 | 作成日時:2023年11月17日 23時