1話 ページ1
「……う、さむ…」
夜も更け、月明かりが脳天へと降り注ぐ頃。
閑静な住宅街を照らすのは、まばらに灯っている窓の光と等間隔に並べられた街灯の光だけだった。
ここらでは、夏も終わり、秋風が涼しくなってきた。
日中は過ごしやすくなったが、夜は案外肌寒く、外に出る時は薄手の上着を羽織らないと体が冷えてしまう。
「プラスチックゴミはこっちに捨てる…で、燃えるゴミはこっち…」
ゴミは朝早起きして出すタイプではなく、夜のうちに出してしまうタイプの私。
今はこうして、両手にゴミ袋をぶら下げて住宅街を歩いていた。
見慣れた標識と曲がり角のすぐ先、ゴミ捨て場まで歩みを進めていく中、ふと、私は異変に気付いた。
鼻が曲がりそうなほどの悪臭と、散乱した黒いゴミ袋。
そのゴミ袋に紛れて横たわる何か。
黒い毛髪と薄汚れて痩せ細った手足。
あれは………人、だ。
さぁっと血の気が引いていく。
まさか、捨て子だろうか。
いや、それにしては体が大きい。
早くなんとかしてあげたい気持ちはあるが、生憎携帯は家に置いてきてしまったので、救急を呼ぶこともできない。
一歩、また一歩とゆっくりその人に近づいていく。
「だ…大丈夫、ですか…?」
両手に抱えたゴミ袋をすぐ側の道路脇に置き、安否を確かめる。
微かに胸部が上下しているのが見えているので、おそらく最悪の事態ではなさそうだが…
しかし、いくら待っても反応がない。
私は意を決してその肩に触れる。
「あの、大丈…」
「触るなッッ……‼︎‼︎」
「ひぃっ…」
大地を這う様な低い声。
突然吐き捨てられた喉を潰さんばかりの大声に、私は伸ばしていた手を慌てて引っ込めた。
気付けば、横たわっていたその人の顔がこちらを向いていた。
瞳孔は大きく開かれ、こちらを威嚇する様にじっとこちらを見つめている。
殺意、憎悪、焦燥、興奮…
それらの感情がないまぜになった、鮮血の様な赤い瞳。
剥き出しの敵意におののいた私はよろよろとその場で尻餅をつく。
人睨みされただけで縮み上がってしまうほどのすごい気迫だった。
…けれど。
けれど、強い敵意が滲むその瞳は、何かに怯えている様に見えた。
殺意、憎悪、焦燥、興奮…
そしてそれらの他に尋常じゃないほどの"恐怖"の感情が見え隠れしていた。
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作者名:他人の空似 | 作成日時:2023年11月17日 23時