出会いはモラを払ってくれたとき ページ1
「……しまった、モラが足りない……」
第一声が情けないその言葉。実に最悪だ。値段の計算もせずに「あれ欲しいな」「これ欲しいな」とホイホイ買い物カゴに入れたのが間違いだった。値段を見たらあら驚愕、ゼロの桁が一つ多い。
(どうしよう、お店の人に謝ってどれか商品を減らすか……でも、断るのも申し訳ないんだよなぁ……)
かと言って手持ち金は本気で無い。仕方ない、腹を括って話しかけよう────と、口を開いた瞬間。
「これが欲しいのかい。店主、値段は?」
「1万モラだ」
「おや、きっかり1万なのは値切りされたからかな?……はい、1万モラ」
「毎度あり!」
「……えっ?」
「ん?どうしたの、ホラ。早く商品を持って。次のお客さんがつっかえてるよ?」
「あっ……ハイ」
何食わぬ顔で平然と1万モラを店主に差し出した男の人。思わず驚いていたが、これまたケロリと何食わぬ顔で「早く商品を持って」と言うのだから驚いた。脳の処理が追いつかないまま、商品を持って慌てて横に退く。
「あ…、えっと。ありがとうございます…決して高くない金額……」
「うん?気にしないで。ああ────いや、そうだな。じゃぁ御礼に、
「そ、そんな御礼で…?失礼では?お金は後でちゃんと返しますよ…」
「いいのいいの。君の時間を貰ってしまうんだからケースバイケースってことで」
手をヒラヒラとさせてにへら、と笑う男の人。第一印象は見知らぬ女にお金を払った軽薄そうな男。話してみて思ったのは、言うことはモテ男が言いそうなことなのに行動が軽薄なせいで残念。結果、私の中でこの男の印象は「残念なイケメン」、略して「残メン」となった。
「ま、まぁ…はい。案内くらいなら一応……」
これが私と「公子」、タルタリヤとの出会いだった。
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作者名:無胤 | 作成日時:2022年12月2日 0時