【短編集】ピーチネクター (ページ2)

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ピーチネクターページ2

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『ふあ～～～』

秋の学校で迎える夕方が好きだ。

小高い丘の上に立つこの高校。

まさしく茜色の夕日が教室に差し込んで

澄んだ秋の風が教室の中に吹き込んで...

受験勉強に疲れても、

この秋に包まれたらその疲れが飛んでいく。

明日もなんだかいいことが起きそう。

そんなことを思わせてくれる空間だ。

帰りがてら近くの喫茶店でモンブランでも...

そんなことを呑気に考えてたら

「 Aさん？」

教室の入口に

『棚澤くん...？』

とうの昔に帰ったはずの棚澤くんがいた。

「今まで勉強してたの？」

『頑張らなきゃだからね... 』

「お～、真面目だね」

俺なんか学校居てもやらんなんて言いながら

私の隣に並ぶ棚澤くん。

いつもクラスの中心にいて、頭も良くて

女の子からも人気な棚澤くん。

同じクラスにいても全く喋らない、

地味で勉強のできない私とは住む世界が違う。

なのに、なのに名前覚えててくれたんだ。

「あ、Aさん進路どうするの？」

棚澤くんはピーチネクターを

くっと喉に流し込んだ。

さっきからしていた甘い匂いの正体はそれか...

『専門学校かな、頭良くないし... 』

学年でも下から数えた方が速い。

テスト終わりには毎回補習に呼ばれる。

そんな私が行ける大学なんてない。

『棚澤くんはやっぱり東京の...？』

「んー、いやここだけの話」

「静岡の大学行こうかなって」

『静岡... 』

なんだか胸がキュッとなった。

『寂しいな』

「え？」

え？

私、今なんて？

『あ、まって、今のは忘れてください』

『あの、なんて言うか』

「じゃあ、一緒に静岡行こうよ」

『え？』

さっきから訳が分からない。

こんな急展開ある？

『だって、棚澤くんとはワケが... 』

「これから一緒に勉強しようよ」

「ビリギャル？的な笑」

こんなことあっていいのか？

天変地異でも起きたのか？

「俺だって、Aさん見れなくなるの寂しい」

「ずっと好きだったの、気づいてなかった？」

そっと触れるような優しいキスは

甘くとろける青春のネクターの味がした。