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どうか出てくれますように ⋯ と、願いながらスマホを握る手に力を込める。
耳を研ぎ澄ませても、響くのは無機質で一定に鳴り続ける機械音。
『 ⋯ 出ないかぁ 』
はぁ、と深く吐いた息はため息混じりだった。
しょうがないよね、ゆづるさん最近めっちゃ頑張ってるもん、忙しいんだよ。
そう頭では分かっていても、落ち込んでしまうもので。
項垂れる頭を上げれば信号は青色。
帽子を深く被り直して足を踏み出し、同じように走り出す。
『 ⋯ 』
結局 ⋯ 結局、着いちゃったなぁ。
大きく “ 警視庁芝浦警察署 ” と書かれた看板に、顔がひきつるのが分かる。
すご〜く入りたくない。
“ 元 ”職場とか ⋯ いやまぁここに勤務したことないけど。
立ち止まっていれば周りからの視線がそれはそれは突き刺さる。
仕方がない、と一歩踏み出す。
「 ⋯ 春? 」
『 はい、何 ⋯ って 』
ほぼ無意識で出てきた自分の言葉に、口を覆う。
“ 春 ”って呼び方 ⋯ 刑事だ、知り合い。
というか問題はそこじゃない。
この声、嫌という程に聞き馴染みのある声。
『 ⋯ ははっ、なんで居んの 』
志摩。
そう呼べば昔と変わらない笑みを浮かべる。
「 こっちのセリフ、なんでいんだよ、何かやらかしたか? 」
『 ふはっ、何もしてませ〜ん、ちゃんと清く正しく生きてま〜す 』
「 お前が言うと嘘くさいな 」
『 ちょいちょい、何言ってんの志摩さんよ 』
何十年ぶりなのに軽口を叩けるのは志摩の社交性のおかげかなぁ。
やっぱり話しやすい、それに ⋯ 雰囲気柔らかくなった気がする、捜一にいた時より。
「 ⋯ 志摩ちゃんの〜知り合い? 」
突如志摩の後ろから顔を覗かせたサングラスをかけた男と目が合う。
聞き覚えのある声、見覚えのある顔、誰だ、と記憶を辿る。
そうだ ⋯ 伊吹。池袋北、一緒だった、伊吹藍。
思い出せた喜びと、相手は覚えていない悲しさにいつもの事ながら少し傷つく。
「 あっ、悪い、昔 ⋯ 近所に住んでた人だよ 」
「 えっ?ご近所さん?仲良しだね〜 ⋯ あっ伊吹です、志摩ちゃんの相棒してます 」
近所て ⋯ 誤魔化し方下手。
初めまして、と笑い “ 伊吹 ” と名乗った彼は右手を差し出した。
やっぱり覚えてないよね、にしても人懐こい人だな ⋯ 志摩とは真反対なタイプ。
志摩は社交性満点だけど、人懐こい雰囲気ないし ⋯ なんて考えながら同じように手を差し出す。
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作者名:たなか | 作成日時:2024年3月14日 16時