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『 ⋯ エトリのこと警察に言うの? 』
机の上で両手を結び、下を俯いていた顔が上がる。
その顔には不安が滲み出て、口には強く力が籠っていた。
合わない視線に悲しさはありつつも、何も言わずに見つめる。
「 ⋯ そのつもりです 」
『 うん ⋯ そっかそっか 』
「 Aさんは、どうされるんですか? 」
突然投げかけられた質問に、一瞬、言葉につまる。
どうって ⋯ 仕事のことか、優しいなぁ。
この期に及んで私の仕事の心配なんて。
『 え〜?どうもしないよ、仕事なんてそこら中にあるからね 』
「 ⋯ いいんですか、Aさんに迷惑がかかるかもしれないのに 」
『 いいよ、それは麦にとって正しい行動なんでしょ 』
そもそも、と言葉を付け足す。
『 麦が何かするのに私の許可なんて要らないでしょ? 』
そう問いかければ、麦は目を見開いた。
パイパイと瞬きをして、困ったように笑った。
「 ⋯ Aさんは優しいですね 」
『 ⋯ 優しい奴はこんなとこいないよ 』
「 そんなことないですよ、優しいから、Aさんはここにずっといる 」
『 ⋯ どうかなぁ、そんな優しいならそもそもこっち側にいない気がするけど 』
そう反論してもふるふると首を左右に振られるだけで、納得してくれないらしい。
私が、そうだとは思わない。
が、どれだけ優しく人間でもこの世界に踏み込まなければ生きていけない人達もいる。
それ以外手段がないのだ、道がない。
私はその人達を守るべきだった、他の道へと手を引くべきだった。
『 ⋯ じゃぁね 』
上着のポケットから財布を取り出し、1万円札を机の上に置く。
その瞬間、ガタッと目の前から音がしたが、無視してソファ席からおりる。
『 何か食べていってもいいし、タクシー代に使ってもいい、好きに使ってよ 』
「 いや、要らっ、大丈夫、ですから、Aさんっ、 」
『 そこは甘えればいいんだよ、可愛くない 』
これ以上ここに留まると、お札が私の元へ帰ってきそうだ。
押し付けられるお札をもう一度机に叩きつける。
不服そうな彼女に笑いかける。
『 ⋯ もし話聞いて貰えなかったら、“ 桔梗 ”って人出してもらいな 』
「 ⋯ え? 」
『 警察ってそんないいもんじゃないからさ 』
「 ⋯ あの、どういうことですか? 」
『 いないって言われたら私に連絡して、気は進まないけど連絡手段は残ってるから 』
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作者名:たなか | 作成日時:2024年3月14日 16時