食事と案件 ページ9
憲誠は鼻で笑うと、端末を取り出し幾度か触るとテーブルの上に投げ出した。
つつーっと端末はAの手元にピッタリ流れてくる。
画面に表示されていたのは、とある男。
「……東都大の蒔田准教授」
「そうだ。単刀直入に言う。そいつを逮捕するつもりだ」
「…………」
「だが、ちょっと入り組んだことになっちまってて、どうにも手が出せねぇ状態だ」
「何か犯罪をしているところを見つけてこいと?」
「話が早くて助かる」
端末を返して、Aはふむと顎を触った。
「犯罪らしい犯罪をしていなかったら?」
「そんときはこっちで強行突破」
「なんて力業」
ジャスミン茶の湯気がほわりほわりと手元を温める。澄んだ香りが雰囲気に似合わずにそこへ漂い続けている。
「強行突破までには時間がかかる。だがそいつが何を仕出かすかわかったもんじゃねえ。時間稼ぎでもなんでもいい、何か接触を図りたいんだ」
憲誠の瞳がぎらりと光った。相手は本気。Aはジャスミン茶を啜ると、一息ついて男を見上げた。
「わかりました。どれだけ力になれるかわかりませんけど、ご協力しましょう」
「悪いな、助かる」
Aはそれに微笑みだけで返した。
■□■□■□■□■
「ご馳走様でした。ありがとうございます」
「構わん。明日学校ちゃんといけよ」
「言われなくても行ってますよ」
車から下りて頭を下げる。男は手をひらりと振って、夜のネオンの中へ消えていった。
今夜はよく食べた。それなのに胃もたれも無し。料理も使っているものも良いものなのだろう。
あの春巻き、家でも作れないかな。Aはスマホで時間を確認すると時間は十時を過ぎていた。
マンションのドアを鍵で開け、ただいまと一緒に靴を脱ぐ。部屋の奥からテレビの声が漏れ、真純がいることをAに呼びかける。
「ただーいま」
「あっ、おかえり。随分遅かったな」
「親戚の叔父さんとばったり会ってね。ご飯連れてってくれたんだ」
「うわ、いいな。何食べた?」
「中華」
「羨ましいな〜」
真純の手元のリモコンがザッピングを繰り返す。バラエティ番組の忙しない笑い声がコロコロと耳元を転がった。
ふと、キッチンの隅に佇むダンボールが目に入る。
どのくらい減ったかな。中を除けば、半分は無くなっている。おや、好調好調。
「明日、買い物手伝ってくれる?」
「いいよー」
半分まで減ったこいつを、がっつり消費してやる。
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◎たなは◎(プロフ) - 仕立て屋さん» コメントありがとうございます! 返信が遅くなりすみません。大変嬉しいお言葉です! 美味しく楽しく元気よく、これからも仕立て屋さんがもぐもぐされますよう心からお祈りしております。 (2017年6月17日 18時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
仕立て屋(プロフ) - 最後の最後で泣かせやがってちくしょうが!(誉め言葉) ついついほろりと来てしまいました。ご飯は感謝して、美味しく食べるのが一番だと改めて思いました。 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。またどこかで、伏線等々は供養してあげてくださいませ。 (2017年3月26日 22時) (レス) id: 12a3217b1f (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Razu.さん» はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです……! お腹も心も満たせる、そんなきもちをお届けできていたら幸いです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 莉子さん» いえいえ、上手とはいえません……! どちらかというと食べる方が好きです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
Razu.(プロフ) - 食事というテーマから、ここまで物語を造り上げられることに、本当に本当に憧れます。これからも応援してます!>< (2017年3月24日 16時) (レス) id: f9eec0b2ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年3月15日 22時