娘と警察官 ページ6
車に乗って数分。市街地を抜けると、車は首都高に飛び乗って速度を上げた。
数分前、彼がAを送ってやろうと誘った時点でわかってはいたが、本当にドライブをするとは。
「わかってたか」
風景が窓の向こうで過ぎ去っていく。真純には家を出てくる時点で実家で食事をしてくる、帰りは遅くなると言っておいた。
「わかってましたよ。さつまいもを崎本さんに渡したのも、貴方でしょ。言いたいことがあれば電話でも入れてくれればいいじゃないですか」
「お前の着信履歴に俺のかっこいい名前が入ってたら、お前の彼氏が見たときトラブルになるだろ」
「嫌味ですか。タバコで肺が黒くなったと思ったら、腹までやられるとは」
「それに関しちゃもう手遅れだな」
「存じ上げております」
車内には煙草の匂いが薄く漂っている。
「それより、私がこんなにいい車に乗ってしまって良かったんですか? 残り香で離婚に発展したって後でクレーム入れられても困るんですけど」
「おいおい嫌味か? 五十過ぎても結婚のひとつやふたつしない俺への当てつけか?」
「別にそういう意味で言ってないんですけど、思い当たる節でもありましたか」
「洒落せぇガキだな」
男がAに煙草の箱とジッポを手渡した。火をつけろと言いたいらしい。
Aは文句を言わず、箱から一本取り出すと着火させて男の口に突っ込んでやった。
「ふん、ジッポの使い方が慣れてやがる。その年その顔で面白いことしてんじゃねえだろうな」
「そんな時間があったらもっと割のいいことしてますよ」
「そんときゃ俺が一番に捕まえて取調室でデートしような」
「そうならないように全身全霊で生きてやります」
「そんなに俺が嫌か」
「それ二択ですか?」
「このやろう」
ふしゅう、紫煙が室内に漂う。ふっ、とAはそれを避けるように息を吐いた。
「で、なんです。話って」
「お前、警察になる気はねぇのか」
「私の運動神経、軒並み平均以下って知ってます?」
「んなに軟弱か」
「残念ながら脳みそは軟弱じゃないですがね」
はん、とAが鼻で笑う。憲誠がふしゅう、と煙を吐いた。変わらずAもふっ、と息を吐く。
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◎たなは◎(プロフ) - 仕立て屋さん» コメントありがとうございます! 返信が遅くなりすみません。大変嬉しいお言葉です! 美味しく楽しく元気よく、これからも仕立て屋さんがもぐもぐされますよう心からお祈りしております。 (2017年6月17日 18時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
仕立て屋(プロフ) - 最後の最後で泣かせやがってちくしょうが!(誉め言葉) ついついほろりと来てしまいました。ご飯は感謝して、美味しく食べるのが一番だと改めて思いました。 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。またどこかで、伏線等々は供養してあげてくださいませ。 (2017年3月26日 22時) (レス) id: 12a3217b1f (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Razu.さん» はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです……! お腹も心も満たせる、そんなきもちをお届けできていたら幸いです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 莉子さん» いえいえ、上手とはいえません……! どちらかというと食べる方が好きです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
Razu.(プロフ) - 食事というテーマから、ここまで物語を造り上げられることに、本当に本当に憧れます。これからも応援してます!>< (2017年3月24日 16時) (レス) id: f9eec0b2ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年3月15日 22時