叔父と娘 ページ5
「今憲誠叔父さんが来てるのよ。ほら、お正月に来たの覚えてる?」
「あー……っと、ふらっと来た人?」
「そうそう」
ビンゴ。Aは心の中でほくそ笑む。対して表情は少し困惑気味にしておいた。あの人と喋ったあの冬の時間は他言していないのだ。
暗黙のルールでもあるかのように。
「そうだ。隣の崎本さんって人からさつまいもを沢山頂いたの。大きなダンボールにひと箱分も貰ったんだけど、二人じゃ食べきれなくって。今日はそれを置きに来たんだ」
「あら、そうなの。お礼言っておいてね」
「昨日試しに食べてみたけど、結構甘くて美味しかったから」
「それじゃあ色々作ってみようかしら」
千香子が洗濯物を抱えて腰を上げる。Aもそれに続いた。
洗濯物を所定の位置に片付け終わると、丁度話が終わったのか客間から二人が出てくる姿が見え、Aは挨拶でもと声をかけた。
「知史さん」
「お、A。帰ってきてたか」
「ただいま。さつまいもを近所の方から頂いて、おすそ分けにね」
「そうか。飯はどうする。食ってくか?」
「いや、家に友達を残してきたから帰るつもり。ごめんね、ゆっくりできなくて」
「いいさ。盆と正月帰ってくるだけでも優秀優秀」
「お前は殆ど帰ってこなかったもんな」
そう口を挟んだのは、父よりも頭ひとつ分大きな体格の、知史の兄にあたるAの叔父、秋本
「随分と綺麗になったじゃねえか、ちっけぇの」
「お久しぶりです、憲誠叔父さん」
「よく覚えてたな」
「先程千香子さんから聞きました」
首をすくめてみせると、憲誠はゲラゲラと笑った。おいおいそこは覚えてますって言うとこだぜ。あはは、冗談ですよ、覚えてましたって。
一通り笑うと、憲誠は車のキーを武骨な指先に絡めながらAに見せびらかした。
「帰るなら、送ってってやるよ」
「いえ、ご迷惑でしょう」
「ちょっとはカッコつけさせろよ」
「では、お言葉に甘えて」
にこ。Aが微笑む。憲誠はその笑顔に同じような笑顔で返した。
くえないやつ。Aも憲誠も、同じくしてそう思っただろう。
「んじゃ、お暇させてもらうぜ。忙しい時間に悪いな」
「いや、構わない。Aを頼んだ。くれぐれもあの車でぶっ飛ばすんじゃないぞ」
「おいおい、俺の職業なんだと思ってるんだ」
綺麗な革靴を、まるでサンダルのように履いた彼は笑って玄関を後にした。
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◎たなは◎(プロフ) - 仕立て屋さん» コメントありがとうございます! 返信が遅くなりすみません。大変嬉しいお言葉です! 美味しく楽しく元気よく、これからも仕立て屋さんがもぐもぐされますよう心からお祈りしております。 (2017年6月17日 18時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
仕立て屋(プロフ) - 最後の最後で泣かせやがってちくしょうが!(誉め言葉) ついついほろりと来てしまいました。ご飯は感謝して、美味しく食べるのが一番だと改めて思いました。 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。またどこかで、伏線等々は供養してあげてくださいませ。 (2017年3月26日 22時) (レス) id: 12a3217b1f (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Razu.さん» はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです……! お腹も心も満たせる、そんなきもちをお届けできていたら幸いです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 莉子さん» いえいえ、上手とはいえません……! どちらかというと食べる方が好きです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
Razu.(プロフ) - 食事というテーマから、ここまで物語を造り上げられることに、本当に本当に憧れます。これからも応援してます!>< (2017年3月24日 16時) (レス) id: f9eec0b2ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年3月15日 22時