【名探偵コナン】零の食卓【降谷零】

ギムレットの瞳 ページ32

雪崩にまきこまれたと通報があってから、その日の夜まで捜索が続いたが結局見つからなかった。

捜索は翌日に持ち込まれ、誰もが眠れない夜を過ごした。そのためか、翌日の早朝、それも太陽がまだ顔を出さない時間から、空が白み始めると共に捜索班が出動した。

雪崩に巻き込まれた時のタイムリミットは十五分。彼らの居場所が雪の中ならば、生存の希望は薄い。


だが、捜索隊の人間が見つけたひとつのぬいぐるみ。


「きらりと光ったんで、何かと思ったら」


朝日の光に照らされて、まるでライトのように反射するぬいぐるみの瞳に気づいた人間が、そのぬいぐるみを取るため木に登ると、とある富裕層の別荘が見えたという。

そこから煙が上がっていた。暖炉を使っているためだ。確認してみれば、そこの別荘は数週間前に家族三人がスキー場にやってきて寝泊りしていた場所だという。


捜索隊と警察、工藤と駆けつけた秋本、真純、それについてきた赤井が駆け込むと、そこにいたのは、もう小さくなった暖炉の前で眠る降谷の姿と、部屋の隅で歯をガチガチ鳴らしながら丸まるAの姿。

降谷とAを救急搬送し、ついた病院で小一時間眠った降谷が目を覚ました時には悲惨な状態だった。


『Aちゃんは、Aちゃんは』


うわ言のように、血の気の引いた降谷が折れたその足で病室を出ていこうとするのを止めるのは、数名の大人が止めてもかなり大変だった。


肋骨骨折のAは、幸い骨が大きくずれていたわけでもなかった。ただ、神経や血管、肺を傷つけてしまう恐れがあるため、治療室に運び込まれたのだ。

処置が終わり、ベッドに沈むAを見て降谷はその場に崩れ、真純は大泣きし、工藤は固まった。

その惨状を見た赤井と秋本、警察関係者はそれはもうどうしたらいいのやら、ホールドアップをしたとか、なんとか。





　
それから、秋本の大声で目を覚ましたその場の人間が歓喜に泣き叫んだのは同時で、朝っぱらから看護師と医師が転がり込んできて怒られた。


二週間の入院を経て、退院をしたAは実家には戻らず真純のいるシェアハウスに戻り、本調子になると、より一層工藤と一緒に捜査依頼に駆り出されることが多くなった。



　
駆け足で過ぎ去る時間に、二回生、三回生を終え、四回生を終え。


Aは、結局、警察官にはならなかった。


ただ、随分と面白いことにはなった。

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