朝の男 ページ31
多分、この男は普通の人間ではない。警察関係者、それも、日本より外部の人間だ。
「あなたは」
「真純の兄だ」
「『秀兄』とかいう」
「それだ」
男が足音もなく近づいてきて、Aの両手を握っていた両手をそっとほどき、Aの上体を上げるのを手伝ってくれた。
「雪崩に巻き込まれたと真純が聞いたらしく、ちょうどその時一緒にいたんだ。足ってわけだ」
「はあ」
「赤井秀一だ。ボウヤ……新一のパーティーに居ただろう?」
「ええ」
Aは男の手からギムレット似のぬいぐるみを受け取り、ほっと肩から力を抜いた。
それから、はっとする。
「降谷さんの足は」
「骨折だ。特に問題ない。安静にしていれば数週間で治る。彼の治癒力は凄まじいからな」
「良かった……」
ベッドサイドにある時計を見やる。七時前。
「良かったと言えるのか」
少し威圧のある声に、時計から目を戻す。モスグリーンの瞳を見上げると、それがAを射抜いた。
「どうしてです」
「肋骨骨折だ。一本ぼっきりと逝ってやがる。右側の第八肋骨」
「はあ」
「昨日の早朝に捜索活動が再開されて、やっと見つかった時には降谷警視は暖炉の前で寝こけてやがる。部屋の隅で女は気絶寸前だ。流石の俺も目眩がした」
「流石の俺って貴方何者なんです」
「FBI」
「…………」
黙ったAを見下ろして、赤井は続けた。
「いつ折れたか、わからんのか」
「雪の中で目が覚めて、隣に降谷さんがいて、取り敢えず起こして骨折してたから、そこらへんの木をへし折って添え木にして。ちょっと痛かったけど、小屋を見つけられたから取り敢えず運ばなきゃと思って半分引きずりながら小屋まで行って」
「小屋で気づいたのか」
「折れてるのかもしれないな、とは思いました」
「なぜその時点で安静にしない」
少し黙って、Aは顎に手を当てた。
「まあ、生きていればかすり傷かなって」
目の前の男は絶句している。だが、彼を代弁するように口を開いたのは違う人物だった。
「んなわけねぇだろ」
床に座り込んだまま眠っていた秋本が首をあげた。
「盗み聞きは野暮じゃないですか」
「野暮でもなんでもいいが、お前は俺に嘘をついたな」
思い当たる節がない。
「つきました?」
「どこが非力だこのクソガキ!」
おお、熊が吠えた。Aはコロコロと笑い、秋本の声でその場の全員が起きた。
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◎たなは◎(プロフ) - 仕立て屋さん» コメントありがとうございます! 返信が遅くなりすみません。大変嬉しいお言葉です! 美味しく楽しく元気よく、これからも仕立て屋さんがもぐもぐされますよう心からお祈りしております。 (2017年6月17日 18時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
仕立て屋(プロフ) - 最後の最後で泣かせやがってちくしょうが!(誉め言葉) ついついほろりと来てしまいました。ご飯は感謝して、美味しく食べるのが一番だと改めて思いました。 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。またどこかで、伏線等々は供養してあげてくださいませ。 (2017年3月26日 22時) (レス) id: 12a3217b1f (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Razu.さん» はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです……! お腹も心も満たせる、そんなきもちをお届けできていたら幸いです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 莉子さん» いえいえ、上手とはいえません……! どちらかというと食べる方が好きです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
Razu.(プロフ) - 食事というテーマから、ここまで物語を造り上げられることに、本当に本当に憧れます。これからも応援してます!>< (2017年3月24日 16時) (レス) id: f9eec0b2ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年3月15日 22時