スキースカー ページ26
どのくらい時間が経っただろうか。目を開けるにも、瞼が重くてどうにも億劫だった。
それでも、手に感じる痺れるような痛みが寒さだとわかったとき、急速に脳が覚醒する。
ここはどこだ? あの時どうなった?
目を開く。何度も瞬かせながら、どうにか視界を手に入れて、Aは絶句した。
一面広がる銀世界。そして、周りには誰もいない。
いや、いた。真横に、半分雪に埋もれた形で横たわっているのは少し傾き始めた陽の光で煌びやかに輝く、くすんだ金髪。
慌てて起き上がると、右の脇腹から少し上、肺のあたりに鈍痛が走ったが、気にしてはいられない。
がっさがっさと雪をかいて、顔を救出するとそのまま肩を叩く。
「降谷さん、降谷さん!!」
唇の色が随分悪い。まずい、これはまずい。慌てて心臓に耳を当てれば、希望の音を拾い上げて胸を撫で下ろした。生きてる。
再度、肩を叩いた。揺すると脳に振動が大きいので、両肩を同じタイミングで叩く。三回を、二セットずつ。
「降谷さーん、降谷さーん!」
心拍数としては異常はない。異常はないが、このままではいけない。こんなところにずっと埋まっていたら凍傷で彼の大事な体が腐っていってしまう。
雪の中から取り敢えず足やら腕やらを救出すると、左足が折れていた。大腿骨が免れただけ良かったと思うか、絶望に耽るか。
そんなのは降谷に託して、Aは雪の上を転がるようにして近くの木に近づき、見上げる。
うん、あれが良さそうだ。
Aは木にさくさくと登ると、ふと周りを見上げた。
「あれ」
家がある。小屋というには大きい。別荘だろうか。
ああ、それどころではない。Aはちょうど良さそうな細さの木の幹に腕をかけ、
「ごめんっ」
バンッ、と破裂に近い音と共に、体が落下する。木の幹を思いっきり折った。体はそのまま雪の上に着地する。
Aはその枝となった木を適当な長さに折っては小枝を折りながら降谷のもとへかけ戻った。
折れた足に添え木をしなければならない。このままここにいたら、夜になる。救助がいつくるかわからないままでは、この地にいないほうがいい。いつまた雪崩になるかわからないからだ。
雪崩は、谷の部分で起こりやすい。ここは危険だった。
太陽を見上げる。ああ、今日だけでいいから、もう少しゆっくり沈んでおくれ。心から切に願い、Aは手袋を外し、腕まくりをした。
痛みで起きてくれれば、いいのだけれど。
157人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
◎たなは◎(プロフ) - 仕立て屋さん» コメントありがとうございます! 返信が遅くなりすみません。大変嬉しいお言葉です! 美味しく楽しく元気よく、これからも仕立て屋さんがもぐもぐされますよう心からお祈りしております。 (2017年6月17日 18時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
仕立て屋(プロフ) - 最後の最後で泣かせやがってちくしょうが!(誉め言葉) ついついほろりと来てしまいました。ご飯は感謝して、美味しく食べるのが一番だと改めて思いました。 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。またどこかで、伏線等々は供養してあげてくださいませ。 (2017年3月26日 22時) (レス) id: 12a3217b1f (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Razu.さん» はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです……! お腹も心も満たせる、そんなきもちをお届けできていたら幸いです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 莉子さん» いえいえ、上手とはいえません……! どちらかというと食べる方が好きです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
Razu.(プロフ) - 食事というテーマから、ここまで物語を造り上げられることに、本当に本当に憧れます。これからも応援してます!>< (2017年3月24日 16時) (レス) id: f9eec0b2ee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年3月15日 22時