例のアレと第一課の戦争 ページ21
「おわっ」
足元をきちんと見ていなかった三島が躓いたのは紙袋であった。足先に硬い感覚があったから、瓶か何かが入っているのだろう。
「す、すみませんっ」
「ああ、すまない。邪魔だったね」
忘れてたよ、と人のいい笑みで秋本が紙袋を引き寄せる。三島は気になって尋ねた。
「それ、さっきの子が?」
「ああ。差し入れだってね。手作りだそうだ」
「へえ!」
そうだ、と秋元がパソコンの画面から顔を上げる。
「私ひとりじゃ食べきれないからね。二瓶あるそうだから、ひとつあげるよ。腐らせてしまっては勿体無い」
「いいんすか!」
「ああ。なんだか二種類あるそうだが、どちらがいいかな」
瓶を取り出して、見せてみる。青いマスキングテープには薄く花柄がプリントされていて、女の子だなあと三島は頭の片隅で考えながら、手に収まるサイズの小瓶を見下ろした。
「ペーストと、ごろごろ? ああ、固形として入ってるってことか」
じゃあ、ごろごろの方で! 腹の減っている三島にはそっちのほうが魅力的だった。秋本の手から受け取り、お礼を言って席へ戻る。
隣のデスクで隈を作っている先輩が恨めしそうに三島を見た。
「もらったんす」
「空けろよ〜」
「えぇ……」
三島の先輩、福田が三島のデスクに積んであった書類をほんの少し掴み取っていった。三島は迷わず瓶のフタを開ける。
「お、スプーンあったかな」
マグカップのそばに置いてあったティースプーンを、瓶の中に突っ込んで一口分取り出す。
福田の口にそれが吸い込まれるやいなや。
「んっ!!」
三島の背中をバシバシ叩いた。三島が驚き、自分もそれにならって一口。
「んんっ!!!」
目を輝かせる。熱ものを食べたわけではないのに、頬が蒸気し、高揚する。どっち血が巡るのが聞こえるほどに心臓がはね、異常なほど唾液が出た。
クリーミーなバターの香りとさつまいもの優しい甘味が広がる。その中にコロコロ転がる固形が歯ごたえを出して、口の中を楽しませた。
無意識に舌がさつまいもの欠片を探してしまう。噛めば、ほのやかな甘い味がにじみ出る。
「なんだこれ、うっま」
「え、やばくないっすか。これ手作りらしっすよ」
もう一口もう一口。ちょ、もう終わりですって俺がもらったんすけど! ほら仕事ちょっと手伝ってやるから、な? ダメっす、これは仕事と変えられないっす。
騒ぎを聞きつけた職員がそれに群がったのは、言うまでもない。
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◎たなは◎(プロフ) - 仕立て屋さん» コメントありがとうございます! 返信が遅くなりすみません。大変嬉しいお言葉です! 美味しく楽しく元気よく、これからも仕立て屋さんがもぐもぐされますよう心からお祈りしております。 (2017年6月17日 18時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
仕立て屋(プロフ) - 最後の最後で泣かせやがってちくしょうが!(誉め言葉) ついついほろりと来てしまいました。ご飯は感謝して、美味しく食べるのが一番だと改めて思いました。 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。またどこかで、伏線等々は供養してあげてくださいませ。 (2017年3月26日 22時) (レス) id: 12a3217b1f (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Razu.さん» はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです……! お腹も心も満たせる、そんなきもちをお届けできていたら幸いです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 莉子さん» いえいえ、上手とはいえません……! どちらかというと食べる方が好きです。 (2017年3月25日 15時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
Razu.(プロフ) - 食事というテーマから、ここまで物語を造り上げられることに、本当に本当に憧れます。これからも応援してます!>< (2017年3月24日 16時) (レス) id: f9eec0b2ee (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年3月15日 22時