【名探偵コナン】零の食卓【降谷零】

第一課とUSB ページ19

夜であるからか、その部所に人はまばらだった。デスクに突っ伏している人もいる。


「あら、秋本さん。そのお嬢さんは」


入室した秋本に目ざとく気づいた中年女性がAを見て目を光らせた。猛獣のそれが垣間見えた気がして、Aはにっこりと整った笑顔を顔に貼り付けて眉尻を下げて見せた。


「私の姪でね。今回たまたま証言者として名前が挙がったんだ」

「あらまあ、そうなんですね。あ、お持ちしますよ」

「すまないね、助かるよ」


缶を上から取って行きつつ、「青木くーん」「これは水嶋くんね！」と名前をぽいぽい呼んでいく。それに合わせてデスクに突っ伏した人間がむっくり起きるものだから、なんだか変な風景を見ている気分になった。

起き上がる職員が礼を述べながらプルタブを開ける。そして各々、Aを珍しそうに見た。一般人が来ていい場所ではないことぐらい、Aもわかっているのだから、その目はやめてほしい。


「一人じゃ持ちきれなかったが、この子がいてよかったよ」

「一般の方ですよね？ いいんですか？」


当たり前の質問を当たり前にする。ああ、彼が一番この状況をわかっている！ Aは内心叫んだ。帰りたい！


「例の男の目撃者だ。話を聞こうと思ってね。遅くなってしまったが、彼女もこの時間しか空いてないって言うし」

「高校生……大学生？」

「大学一年です」

「うわ〜若い」


数年前まで俺も大学生だったのになーと誰かが漏らすと、どっと笑いが起きた。お前もう両手じゃ足りないだろ、なんて突っ込みも入る。


「目撃者って、何の？」

「それを今からってことだ。三島君、立会人を頼むよ」

「承知しました！」


一番若手だろうか。飲みかけのコーヒーをぐっと煽った青年は椅子にかけてあったジャケットを引っ掛けるとノートパソコン片手に秋本の後に続いて退室した。Aも追いかける。


「目撃者が秋本警視正の姪っ子さんなんて、すごい偶然ですね」

「あはは、私も驚きで」

「大学はどこへ？」

「東都大の文学部に」


第一課会議室。プレートのついたドアを開けて、使用中の表示に変えてから電気をつける。


「座ってくれ。三島くんは記録を頼むよ」

「はい！」


夜九時を回っているのに元気だ。空元気なのか何なのか知らないが、元気だ。

結局、聞き取りが終わった時、時計の短針は十の文字を過ぎていた。

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