【名探偵コナン】零の食卓【降谷零】

電話とデータ ページ14

空は一時間ほど前に濃藍から勝色へ変わると、その体に金銀財宝をぶちまけたような星を輝かせた。


そんな晴れ渡る澄み切った夜空の元、Aは大学の一番上にあるトイレへ来ていた。

建物の西側に位置するそのトイレへ、Aは足音無くそろりと近づくと、スマホのカメラを起動させた。


ビンゴ。


リモコンから発信される赤外線がケータイのカメラを通す事によって見えるという話は有名だが、トイレの入口付近に設置されていたのは、足元を貫く赤外線センサー。

なるほど、これに引っかかるとトイレ内で何かが作動する仕組みになっているようだ。




洗面所にある掃除用具入れから「清掃中」の看板を置いて、Aはセンサーに気をつけながら、女子トイレへ足を踏み入れる。

西側の最上階トイレなど、使う者は数少ない。この近くの講義室で手芸サークルが活動しているものの、彼女らは夜まで活動することはほぼない。

蒔田准教授が巡回に来るのが夜八時半。現在、午後八時十分前。

うん、時間に余裕はある。じっくり見させてもらおう。


カメラとライトを並行で使用しながら、トイレへ入る。手前のドアを開いて、中を覗いた。

一見おかしなところは見当たらない。だが……。


「あった」


個室の壁を固定するL字金具についている、ネジ。これは誰も気がつかない。気が付く奴の方がおかしい。

うん、見つけた。これはカメラだ。

よく見てみればわかる。十字穴の向こう側、ライトで照らすと小さく反射するのは、レンズがその向こうに隠されているからだろう。

無音カメラで撮影。周りを見渡せば、あるわあるわ。

四つある個室、全てにカメラが設置されていた。あるところには荷物フックのネジに。あるところにはドア隅のネジに。


Aは全てをカメラに収めてから、赤外線センサーに注意しながらトイレを出た。清掃中の看板も、きちんと元に戻しておく。


さて、中華はこの前食べたし、今度は何がいいだろう。カメラに収まったデータを撫でるように、スマホを手の内で転がしながら、Aはその場を離れて身を隠す。


　



　


　


静かな西棟には、呼吸の音さえ聞こえなくなった。

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