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耳元で、今度はもう一回り大きな、同じ音。
鼓膜が破れるのでは? と思うほどの大きな音。耳の奥がガンガンして、他の音が小さく聞こえる。

 鼻をついた、妙に酸っぱい臭い。悪臭。思わず顔を顰めた。臭い。
Aの腕を掴む、カサついているのに汗ばんだ手。太く、贅肉ばかりのふてぶてしい指。

 引っ張られて、悪臭がもっと鼻に近づく。鼻の奥、目頭からこめかみを貫く悪臭。
気持ち悪い、近寄りたく無い。そう思った瞬間、首から引き寄せられる。

気道がぐっと狭まる。少しの苦しさと強烈な臭さ。右のこめかみにねじ込まれる、冷たく硬い、何か。

そして、大声。


「殺すぞォッ!!!!」


 静寂に包まれていた周囲が、悲鳴と驚愕を沸き立たせた。

「うるせぇ! 黙れ! その場に四つん這いになれッ!!! 早くしろ!! この女殺すぞ!!」

 ぎゃあぎゃあ。騒いでいた喧騒が、ゆっくりと、静かになって行く。

もう一度、乾いた音。

 静寂。

「いいかあっ、もう一度、もう一度、もう一度いう。静かに、その場で、四つん這いになれ。この女殺すぞォ」

 おや、この女とは。まさか。

「荷物は全部床に置け。携帯はここに投げろ」

 まさか?

「おい、お前もスマホ出せ。そこの隅に捨てろ」

 まさか。

「あ、私?」
「殺すぞっ!!」

 頭が揺れた。



 
■■■



 のろのろと、目が覚めた。かち割るような痛みが頭を揺さぶる。

「う゛」

 頭をあげる。何がどうなって、こんなに頭が痛いのか。時計はどこだ、いまは何時だ。今日何曜日だっけ。仕事行かなきゃ。昨日こんなに飲んだっけ? でも二日酔いの頭痛とはちょっと違う。なんで頭、右側だけ痛いの。風邪とかやめてよね、仕事回せないのは勘弁してよ。

 頭を、重い頭を持ち上げる。目が、枕元に置いてあるはずのスマートフォンを探すためにさまよった。

「…………あれ?」

 ぼやけていた視界がゆっくりとクリアになり、焦点が合い始めた。あれ、あれあれあれ。ピントがズレては合ってを繰り返し、その感覚が緩やかに短くなっていく。徐々に焦点が、視界のピントがいつも通りに機能し始める。

「オイ」

 鈍痛をキリキリと締め付ける、突然の悪臭。酸の強い、鼻の奥と喉を締め付ける、悪臭。

「オイ」
「う゛」

 悪臭で締め付けられた喉が痙攣する。こみ上げてくる吐き気にゾッとして、Aは奥歯を噛み締めた。

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(プロフ) - えっ……天才。 (2018年10月21日 21時) (レス) id: 057c14ed72 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年10月15日 21時

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