【名探偵コナン】下書き【降谷零】 (ページ19)

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「…………はあ、それならどうして助けたんですか」
「原因はその時点に存在していなかったから」
「じゃあ私があなたの警察手帳を見たのが悪かったと。身元がバレてはいけない部署だったんですか」
「君、さっき警察手帳に書いてあったこと、覚えてるか」
「夏目京、警察庁警備企画課所属、役職は警部」
「あぁ殺さなくては」
「物騒な」

　この状況で？とAは周りを見る。

「お兄さんが私を殺さずとも、ここにいれば二人して死ねます。一酸化炭素中毒でね。置き去りにしてくれても構いませんが」
「それは警察官としてどうかと君は思わないのかな」
「警察官がそんな甘っちょろい考えでいいんですか」
「君は話がしやすいね。よくわかってくれるじゃないか」

　警察官は立ち上がると、Aに手を差し伸べた。

「君、名前は」
「加々美Aです」
「そうか、加々美。殺されるのと死ぬの、どっちがいい？」

　Aの足元には、店員の血だらけになったネームプレートが転がっていた。本体がどこにいるかなど、知りたくもない。

「イエスかはいの二択みたいですね。死ぬほうがいいです」
「そうか。君は全てを捨ててオレについてくる気はあるか」
「それは、親も友人も、という意味ですか」
「そうだ。全てだ。君の名前さえ捨ててもらうこともあるだろう。どうだ。人生の全てを、いま、ここで、決めろ」

　Aはもう一度、血だらけのネームプレートを見下ろした。寺田沙織と書いてあった。少し視線を動かすと、そこには体の上半分が無くなっている体があった。煙の匂いで血の香りもわからない。

　全て。

「過失は半々じゃないですか？」

　見上げた夏見の顔は、驚きの色が薄く見えた。

「すべての過失が私にない限り、私は命が惜しい」

「そうか。ならオレも、すべての過失がオレにない限り、君をきちんと鍛えよう」

　煙と炎と死体の中で、二人は握手を交わした。こんなにも世界で軽々しく命と人生を決める握手を交わしたのは、きっと彼ら二人が最初だろう。