【名探偵コナン】下書き【降谷零】 (ページ16)

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慰労会の会場は賑やかだった。夏見は変わらず周囲から賞賛されていたし、国からの賞与も送られた。

あちらこちらで犠牲になった仲間を偲ぶ声や、生きていることを確認してよかったと涙する声が聞こえる。そんな中、降谷はスコッチの名前が掘られた位牌の前に立っていた。周りには所狭しと花が供えられていて、顔を近づけなくとも花の香りが周囲を漂う。

「なあスコッチ」

　賑わいの中では、降谷の声など誰にも聞こえない。聞こえているのは、死んだスコッチだけだ。

「僕はあの雨の日、足を抱えて思ったよ。どうやったらAを守れたのか。どうしてあの時追いかけていなかったのか。呼び止めていなかったのか。

　いつだって思い出すんだ。あの足の冷たさも、重さも、雨音も。どうしても、耳から離れない。思い出そうとすれば鮮明に思い出せる。小学校で初めて顔を合わせた日も、初めて握手をした手の冷たさも。

彼女はいつだって冷たかったよな。冷淡に笑って、飄々としていて、冷静で。でも触ろうとすると火傷するんだ。ドライアイスみたいだった。本人に言ったら、怒られるだろうけど」

　降谷は持っていた花束を、位牌の前に献花する。

会場内にハウリングの歪な音が広がる。振り返ると、壇上で夏見がスピーチを始めるところだった。パチパチと周りからは拍手が送られ、人のいい気さくな笑顔で夏見はマイクを掴む。

「皆様、ありがとうございます。そして、私についてきてくれた部下たちよ。ありがとう」

　社交辞令ではなく、感謝の言葉から入るのは夏見らしい。ニコニコとした笑顔が会場にも感染ったようで、周囲はグラスを片手に微笑んでいた。

スピーチはある程度の社交辞令を終え、時折会場を笑いに包みながら進んで行く。

「今回の慰労会は追悼式も兼ねています。
　その話をする前に一つ。実は、作戦成功にあたりとあるひとりの部下に何か賞与として欲しいものがあれば上に伝えようと言ったのです。
しかし部下の願いは、特に欲しいものは無い、自分が追悼できなかった同じ警官の幼馴染をこの場を借りて追悼したいとの事でした。
　上司である私はそれに関して、応えるしかないと強く思いまして。私の部下は、最初、私がこちらに招き入れてしまった子猫だったのです。育ててみたら、子猫ではなく虎だったわけですが。だから願いの一つくらい聞いてやらねばと」

　会場がふわっと沸いた。

「という事で、そんな私の部下を紹介します。虎よ、こちらへ」