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Aの入部した文芸部は、コアな人間が集まると思いきや、そうでもないらしい。部長や副部長と知った幹部メンバーはある程度の知識と器量を持ち合わせている人間だったが、そのほかは籍を置くだけで現れもしない。しかしそれは毎年のことらしく、部長たちもそのことについては言及しないようだ。
そうして出来上がったのは、本の壁で囲まれた一室と、そこに優雅な時間を流す部員数名。顧問も関与したくないらしく、部内の雰囲気は緩やかだ。
「俺たちは気づかなかった部活だけど、知っていたら俺も入っていたかもしれない。Aはいい選択をしたと思うよ」
スコッチの言葉に頷きながら、零はAの横顔を眺める。
「なあ、進学先とか考えてるのか、二人は」
零は、その横顔をいつまで見ていられるのかを聞きたかったはずだった。
「一年の夏に決めてると思うか?」
「それもそうか」
「零は決めてるってことかな?」
「いや、まだ。なるようになればいいとは思ってる」
「適当だなあ」
中学三年の冬、この言葉を思い出して三人で笑い合ったのはいい思い出だ。進路希望表を突き合わせて、結局第一希望に記載された高校名は、三枚とも字の癖は違えど文字は一緒だった。
■
「で、お前はまだネクタイを自分で結べないのか」
スコッチがへらりと笑うが、零の眉はつり上がっている。その隣でクックと笑うA。緑色のネクタイは今日も変わらずスコッチの首元でくしゃくしゃになって垂れていた。
「もう解くのやめたら? 緩めて首だけ引っこ抜けば、形状維持で次の日も締めるだけで良くなる」
「A、そうやってスコッチを甘やかすからこうなるんだ」
「はいはいどうもすみませんね零殿。まあでもスコッチ、女子はともかく男子はネクタイが結べないのは今後として如何なものかと思うよ。今後一生スーツを着ないと言うのなら話は別なんだけど」
「それは俺に就職も進学もしないと言ってんの」
「さあ、それはスコッチの好みでどうぞ」
高校一年の秋が終わって、冬に差し掛かろうとしていてもスコッチはネクタイを結べないままでいた。結べるには結べるのだが、どうしても形が不格好で、前より後ろの布が長くなる。そんなものがジャケットの前から垂れていると大変に格好が悪い。
結局毎朝、零かAが結んでやるのだが、スコッチ本人がそれを楽しみ始めてきているのだった。しかし零は、案外この茶番が好きである。
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◎たなは◎(プロフ) - さくらさん» ありがとうございます…………告白されてしまった(違う) (2018年5月14日 6時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
さくら(プロフ) - すきです………(すきです) (2018年5月14日 0時) (レス) id: f18f805e19 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年5月13日 18時