タクシー車内セカンド ページ5
「お恥ずかしながら申し上げますと、女を連れ込んでました」
今度黙ったのは、メアリーと真純の方だった。
「本当にすみません。落ち度があるのは私の方です。酒癖の悪さはある程度知っていましたし、近くに居なかった私に落ち度があります。息子さんである秀一さんはいつだって優しかったですし、心強い人です」
「浮気現場を、見たのか」
「真っ最中でした」
「…………なんの、とは聞かないでおく」
「ありがとうございます」
「それと」
メアリーが、狭い車内の中で壬生と向き合い、手をそっと重ねた。暖かい、綺麗な手だった。
「君が謝ることは、何一つない。酒癖の悪さは自己管理不足だ。近くに居なかったなど、Aは慰労会であったとしても仕事の範囲内。近くにいないことは当然だ」
「ですが、浮気というのは私に何かしらの不満があってこその出来事だったのでしょう」
「ううん、僕は違うと思うよAちゃん。Aちゃん、いますっごく悲しそうな顔しているよ」
「手も震えている。気づいていなかったか?」
「浮気っていうのはね、どこからが浮気とかって話じゃないんだ。キスからでも体を重ねることからでもないと僕は思ってる。浮気ってね、僕はAちゃんがこの出来事に『かなしい』って思った瞬間からなんだよ」
だからAちゃんは悪くないよ。真純も壬生の手に手を重ねる。暖かさが増え、思わず涙が溢れた。
「す、すみませ。泣くつもりじゃないんです。泣いてもどうにもならないことは、わかってるんです」
それでも涙は勝手に出てきた。壬生は自分でも驚いた。この年になって男に泣かされるとは。
そして、ふと思った。泣かされる? 私今、あの浮気男に泣かされたのか。
すぅっと、血の気が引いていった。涙の暖かさも、消えた。
「私はかなしい。でも、それ以上に」
メアリーと真純が、言葉を促すように、待ち望んでいたように頷く。
「悔しい」
タクシーはネオンを切り裂き、街を撫でて行った。
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名無し - 中途半端な終わり方で残念 (2020年11月29日 4時) (レス) id: 00f63b334e (このIDを非表示/違反報告)
kyouka(プロフ) - こちらはもう更新されないのでしょうか?面白かったので楽しみにしていたのですが、もうずっと更新されないまま他作品を始めてしまわれたみたいなので…できればまた再開してほしいです。お待ちしてますm(_ _)m (2018年9月8日 1時) (レス) id: 5e916ee117 (このIDを非表示/違反報告)
ドリィ(プロフ) - ◎たなは◎さんの書く赤井さんシリーズ大好きです!いつも楽しく読ませて頂いています。勿論、「ぼくたち無能なので。」も読んでます!更新が止まっているので、心配してます。無理せず頑張ってくださいね!これからも楽しみしてます。 (2018年7月5日 23時) (レス) id: 3c15da6a86 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - つばささん» 初めましてたなはです。私はつばささんのコメントを見てニコニコが止まりません。嬉しいです。ありがとうございます。 (2018年6月23日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - れおさん» ありがとうございます。笑いをお届けできて嬉しいです。更新お待たせしてしまいすみません。これからもどうぞよろしくお願いします! (2018年6月23日 22時) (レス) id: b9c1cce9d4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2018年5月20日 9時