【名探偵コナン】大脱走！アタックシスターズ【赤井秀一】

東都ホテル1107号室 ページ1

ドアを開けた。

開けた。開けたよ。何があったと思う。


　職業柄、死体の数々や死んでいなくとも残虐な場面にはいくつも出くわしてきた。精神的にも肉体的にも辛く苦しいことは何度もあったし、大切な仲間も家族も友人も失った過去の一つや二つはある。
だから、ある程度のことでは既に驚かなくなっていた。

　さて、心を落ち着けるために一つ話をしよう。
「驚き」という感情は、“二つ目の感情”である。驚き、それすなわち「びっくり」。びっくり、というのは何かを期待していたからこそそれが裏切られた際に驚きを覚え、そして「びっくり」するのである。例えば、降谷零ってもっと大人しくてお兄さんっぽい人だと思ってたけど、この前180キロで走っててびっくりしちゃったぁ！ というもの。これは、「大人しくてお兄さんっぽい人」だと思っていた所に180キロで通過する降谷零を目撃したことで「何あのゴリラ。思ってたのと違くね？」という感情が生まれてからこそ「びっくり」が発生するのである。180キロで通過するゴリ……降谷を目撃しなければ、まず「驚く」ということが無い。
期待を裏切られるからこそ生まれるのが「驚き」なのである。


　
　話を戻そう。
ドアを開けたら何があったと思う。

まず、聴覚が受け取った。喘ぎ声。女の。もちろん自分の声ではないのでご承知おき願いたい。
そして次に嗅覚。イカ臭さ。汗。香水。もちろん…………言わなくてもわかっていただこう。
で、視覚。女の足。男の背中。軋むベッド。


あっ、と思った瞬間。喘ぐ女と目が合った。一瞬で女の表情が青白くなる。ぎゃあっと色気の無い悲鳴を上げて、シーツをめくり上げた。男がその反応に、ドアからの光に、振り返る。

　
「A」


　ドアを閉めた。ぱたん。


「は？？？？？？？？？」


　はいっ、では脳は常時活動を開始及び現状把握と感情の確認を。神経伝達部は指先の震えを早急に停止させ、歩行機能を起動。

　聴覚が読み取る、ドアの向こうから聞こえる慌ただしい声と自分の名前を呼ぶ彼氏の声。焦っている焦っている。女のヒステリックな叫び、痛そうな音。へえ強気な女。人の彼氏に手をあげたか。綺麗な紅葉が頬にできたことだろう。


　
歩き出して三歩。走り出した五歩目。


あらそう。

そうなのね。

あなたがその気なら、こっちにだって考えることは山ほどあるわ。

でもその姿で私の名前を呼ぶんじゃねぇ。

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