【オリジナル】天の砂時計

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七時半少し前。いつもより少し早く家を出たAは昨晩の帰路を逆に辿り、同じように手のひらに貴公子を乗せ、交番に向かった。
横を駆け抜ける小学生に時折怯えながら、この腕時計を交番まで届けなければと、ただそれだけを一心に、Aは交番までの道を足早に進んだ。

　自宅から交番までは徒歩十分か十五分。その誤差といえば信号待ち程度であるが、焦る気持ちがそうさせたのか、過去最速、八分で交番まで到着したAは、いつも外で挨拶をしている警察官の男に声をかけた。

「おはようございます」
「おはよう。どうかした？」
「これ、落し物です。昨日の夜に公園で見つけて交番覗いたんですけど、人がいなくて」
「そっか、ありがとう。時間大丈夫？ 書いて欲しい書類あるんだけど。五分くらい」
「大丈夫です」
「じゃあ中入って」

男のあとに続いて交番に入る。この交番に入ったのは何年ぶりだろう。幼い頃、公園でみつけた十円玉をここにいた警察官に落し物だと言って届けた覚えが最後だ。

「そこの椅子座って。ちょっと待っててね」
「はい」

パイプ椅子を示され、Aはカウンターにそっと時計を下ろすと、バックパックを抱えるようにして椅子に腰掛けた。警察官の男性はカウンターの奥の棚から書類とペンを取ってくると、カウンターを挟んで対面して座った。

「これ、ハンカチ？」
「あ、腕時計が中に。ハンカチ包まれてたので、一緒の持ち主かなと思って」
「そっかそっか。うわ、これすごい高いやつだよ。Alphaってブランド」
「高価なんですか」
「うん、有名。種類にもよるけど、安くても六十万はするよ。拾ってもらって良かったなあ」

　Aは安堵の息を吐いた。良かった、変わりなく彼が秒針を動かしていてくれて。

書類を一通り書き終えたAは、警察官に貴公子を託し、時計を見上げて少し焦った。いつもどおりの時間、それよりも少し遅くなってしまった。駅まで走らなければいつもの時間に乗る電車を逃してしまう。

「これで大丈夫ですか」
「うん、ありがとう。落とし主見つかるといいね。時間大丈夫？」
「ちょっと危ないです、すみません、忙しなくて。それじゃあ」
「気をつけて、いってらっしゃい」

　Aは交番を飛び出してすぐの角を駅の方向に曲がった。次の瞬間、角から出てきた黒い影に押しつぶされそうになる。

「うわっ」
「おっ、と。失礼」
「あ、ごめんなさい」

黒い影は、スーツのよく似合う、背の高い男だった。

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