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千桜は早朝、その公園に駆けつけた。
もうすでに小学生の姿が見え、彼らが昨日の夕方もしあの時計で遊んででもしたら、と思うとぞっとした。
 解き放たれた弾丸のように走っていく小学生に気を配りながら、昨日座ったベンチに近寄ったが、相棒の姿はどこにも見受けられない。

 どうしても諦めきれず、ほかのベンチも探した。誰かが落し物だと気づいて花壇の隅に置いてくれたのではと思い、公園内をぐるぐると歩き回ったりもした。

 だが、だめだった。どれだけ探しても見つからない。

いつもそこにあった腕時計の左手首に秋風が通り抜けて、千桜は肩を落とす。
公園に設置された時計を見上げ、随分長い時間自分が公園内を彷徨っていたのか実感した。それがまた、絶望を呼び寄せる。

 千桜は駅に向かうことにした。もう、相棒には出会いないらしい。Alphaの時計を見つけたら、その価値を知る人間であれば持って帰ることもあるだろう。日本はほかの国と比べて治安は良いが、国内だけで見れば、別段親切すぎる国ではない。

 駅までの短い距離に革靴を響かせていると、ふと思い出した。
そういえば、公園近くの交番を確認していなかった。


 千桜は踵を返すと、その革靴で走った。綺麗に磨かれたそれが傷つこうと関係なかった。小学生の弾丸のような走りによく似た足音で、千桜は交番の角を曲がった。


 その時だった。

角から現れた小さな姿に思いっきりぶつかりそうになる。
一瞬の反射で急ブレーキをかけた体は、危機一髪、ぶつからずに済んだ。


「うわっ」

眼下で黒い、つややかな髪が驚きに揺れた。痛みのない、烏の濡れ羽色をした髪は秋の青空によく映えていた。

「おっ、と。失礼」

 女子高生だった。短く切った前髪の向こうにある大きな瞳が千桜を見上げる。驚きに数歩退いた足は、絡まることなく地面に収まった。千桜はほっとする。転んで怪我でもさせたらと考えると、恐ろしい。最近の女子高生は気が強いと聞く。面倒なことは御免だった。

「あ、ごめんなさい」

 その瞳は驚きに見開かれさえしたが、尖った視線を投げて寄越し暴言を吐くこともなく、すみません、ともう一度謝罪を漏らすと走りにくそうに、長くした肩紐のリュックをはねさせて、駅の方へ駆けていった。
 緑色の定期が入った某サロペット姿の黄色いキャラクターなパスケースが、妙に楽しげな笑顔で千桜に手を振っているような気がした。

 後ろ姿を目の端に、千桜は交番に足を踏み入れた。

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設定タグ:三十路 , 年の差 , 女子高生   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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篠屋裕季(プロフ) - ◎たなは◎さん» お力添え致せたこと、幸甚に存じます。何気無い日常を記していくような、そのなかに流れる一つの川のようなものを感じることが楽しいです。また立ち寄らせていただきます。 (2017年8月22日 12時) (携帯から) (レス) id: f2dc7330c9 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 篠屋裕季さん» コメント・ご指摘ありがとうございます!修正いたしました。篠屋裕季さんのお時間を使って読んでいただけることとても嬉しく思います。お手隙の際にまたお立ち寄りいただければ幸いです。 (2017年8月22日 9時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - Lucyさん» コメントありがとうございます! そう言っていただけて私もとても嬉しいです。街灯も星も頭より上に存在するものとして、ふと顔を上げてもらえたらなと思って書いております。遅いペースの更新になりますが、よろしければお付き合いくださいませ。 (2017年8月22日 9時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 七味さん» コメントありがとうございます!嬉しいお言葉とても励みになります。これからも遅いペースではありますが更新していくのでよろしくお願いします。 (2017年8月22日 9時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
篠屋裕季(プロフ) - 「砂時計を眺めるのが、彼女のそれであr。」になってます。「ある」ですよね?突然すみません。このコメントは削除していただいて結構です。いつも楽しく拝読しています。更新頑張ってください。 (2017年8月22日 0時) (携帯から) (レス) id: f2dc7330c9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年6月18日 20時

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