11月9日 ページ6
三守は慌てて顔を引くと、適当な笑みを浮かべてみせた。
「ちょ、ちょっと。どういうことです? 落ち着いて、ね」
「俺はいつもどおり落ち着いているが。君のほうが焦っているように見える。何か不安なことでもあるのか」
お前だよ! と言い返したいところをぐっと飲み込み、はは、と笑う。なんて薄っぺらい声しか出ないんだと三守は自分を殴りたくなったが、鼻が触れる距離に気の違った相手が居ると、きっと誰だってそうなる。
「待ってたって、何を待ってたんです。私が部下と話していることに何の問題が?」
「何の問題が……? なんのって、きみは、もしかして、わかっていなかったのか?」
「あぁ、あぁまってまって。わかりました、わかってましたって」
「本当に?」
「わかってましたよ。ね、大丈夫ですから」
「そうかよかった。なら、君はどうしてそんなに怖がっている。何が君を怖がらせているんだ」
正気の沙汰ではない。この男、本当は気違いだったんじゃないか? FBIのメンタルトレーナーは仕事してるのか? 精神病院に突っ込んでやったほうが身の為だ! もちろんお前の身の為にだ!
掴めない状況と、この狂気じみた男を目の前に拘束された三守は絶えずハハハ……と平らな笑顔を続けながら、どうにか逃げなければと耳をすませた。
だが、残念。この部屋、どれだけ耳をすませたところで何一つ聞こえない。先程壁に背中をつけた感覚を思い出し、この空間をつくる壁がかなり完璧な防音対策がされていることに気づく。こいつ、もしや。
「えぇっと、ほら。あまり近いのは……その、慣れていないんです」
嘘をつくときは、まず真実から。あながち嘘ではないことを述べれば、赤井はその瞳をぱちくりさせてから、ふっと笑って手を離した。薄気味の悪さはまだ残っていたが、「待った」ことへの理解が不十分だった時よりはその面影を奥にしまったようだった。
「君は案外奥手なんだな」
「はは、まあ」
「でもいいさ。ここにいれば誰かに見られることもない。俺と君だけだ。うれしい。あぁうれしいよ。君も俺を想っていてくれたんだな」
「え?」
「………………」
思わず出た言葉に、地雷を踏み込んだ……より、地雷を蹴飛ばした、ということをひしひしと感じた。まずい、まずいまずいまずい。
赤井の顔はみるみるうちに強張り、険悪になっていった。気味の悪い瞳が刃のように向けられ、眉間には深い皺が寄り、形の良い口は舌打ちをこぼした。
まずい。
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シルフィ - めっちゃ好きです!更新楽しみにしてます! (1月28日 17時) (レス) @page8 id: 5010c918af (このIDを非表示/違反報告)
ねねね - すごい好み! (2020年3月6日 17時) (レス) id: d3b33fa87c (このIDを非表示/違反報告)
merion(プロフ) - とっても面白いです!!更新待ってます!! (2018年3月15日 20時) (レス) id: 29c216d5d4 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 裏切りのかすてら王子さん» コメントありがとうございます。更新させていただきました。長らくお待たせして申し訳ありません。楽しんでいってくだされば嬉しいです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 茅乃さん» コメントありがとうございます。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。楽しんでいただけたら幸いです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月27日 15時