11月10日午前10時 ページ12
平和を目前にして、三守はそれでも食事に手をつけなかった。何が入っているかわかったものではない。公安に勤務する身として数多の困難と恐怖を乗り越え図太い神経を持ち合わせているとはいえ、その図太さもこれでは針のごとく。正々堂々と睡眠薬を口移しで飲ませてくる男の手作り料理なんて食べた日には、明日どうなっていることか。
「食べないのか?」
モスグリーンがブラウンを覗き込む。しかし、ブラウンは常にダイニングテーブルの角を見つめ続ける。鼻を攻撃する香ばしい香りに空腹で胃がギリギリと痛むが、無心でモスグリーンを無視した。
「毒でも盛られていると思うか?」
「…………」
「愛しい相手にそんなことをするような人間だとでも?」
「…………」
睡眠薬飲ませたことを棚に上げ…………毒も睡眠薬も処方を間違えれば一緒だろう! 三守はずっとテーブルの角を睨みつけたまま、赤井から顔を背け黙り続ける。
しかし、どう抵抗したとしても抗えない線が世の中にはある。それは、学力や体力であるように、男女の力の加減もそれの一つ。
目の前の男が突然立ち上がったかと思うと、広いコンパスを利用してさっさと三守の目の前に立ち、なんの早業か、一瞬で三守を担ぎ上げた。
思わず体が跳ねる。視線がテーブルの角からはずれ、思わず迷わせると、緑の瞳に絡み取られた。ひっ、と喉が鳴る。体は浮遊感に強張り、腰に巻きつく太く筋肉質な腕の力に、三守の背中を恐怖が走った。
赤井は片腕で三守を担ぎ上げると、そのまま自分の食べていた皿をもう片手で持ち上げ、大きなソファに移動した。
まるで壊れ物でも扱うようにそっとソファに三守を下ろすと、赤井も隣に腰を下ろす。三守はソファの隅まで後退していつでも逃げられるように手を肘掛に置いた。
「そう睨むな。食べなければ栄養にならない」
ガラス製のローテーブルに置かれたふんわりとやさしい黄色のオムレツを、赤井はスプーンですくうと、三守の方へ向き直り「ほら」と言った。何がほらだ。
「食べてくれ」
口元に運ばれたスプーンんを、三守は手で撥ね退けた。軽やかな音が室内に響く。スプーンと美味しそうなオムレツは無残にもフローリングで屍となった。
赤井は飛んでいったスプーンをみやると、小さく溜息をついてソファを離れ、スプーンんとオムレツの残骸を拾い上げて処理すると、ダイニングテーブルにあった三守のスプーンを持ってきた。
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シルフィ - めっちゃ好きです!更新楽しみにしてます! (1月28日 17時) (レス) @page8 id: 5010c918af (このIDを非表示/違反報告)
ねねね - すごい好み! (2020年3月6日 17時) (レス) id: d3b33fa87c (このIDを非表示/違反報告)
merion(プロフ) - とっても面白いです!!更新待ってます!! (2018年3月15日 20時) (レス) id: 29c216d5d4 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 裏切りのかすてら王子さん» コメントありがとうございます。更新させていただきました。長らくお待たせして申し訳ありません。楽しんでいってくだされば嬉しいです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
◎たなは◎(プロフ) - 茅乃さん» コメントありがとうございます。長らくお待たせしてしまい、申し訳ありません。楽しんでいただけたら幸いです。 (2017年7月22日 14時) (レス) id: 8b768110c2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:◎たなは◎ | 作成日時:2017年5月27日 15時