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放課後、人が少なくなった校舎の端から端まで、
私と先輩はひたすら歩いて回った。
あんまり大きな学校じゃないから、
私が「あそこが音楽室です」とか「ここが家庭科室です」とか
面白みも何もない説明をしながら歩いているだけですぐに終わってしまったけど
先輩は「音楽室2つあるんや〜」とか「めっちゃええ匂いせん？」とかって
ずっと楽しそうにしてくれていた。
「ありがとね。ホンマに最初に会うたのが沖ちゃんで良かったわ」
下駄箱で一旦別れて、
校門のところで合流して駅までの帰路につくとすぐ先輩はそう言って笑った。
私より10数センチほど高いところにある先輩の横顔は、
笑っているのにどこか儚げに見えた。
「いえいえ、……そう言えば、先輩のお名前訊いても良いですか？」
すっかりタイミングを逸したままになっていたのを思い出してそう尋ねると、
大人びた笑みを崩して、「ははっ」と少年みたいに笑う。
「言ってへんかったね、そう言えば。う〜ん、金太郎？」
突然出てきた古風な名前にちょっとだけ驚く。
「金太郎先輩？」
「そうそう、金太郎。金が苗字で、太郎が名前」
「じゃあ、金先輩って呼べばいいですか？」
しばらく俯いたまま、何か難しい顔をする先輩。
「どうかしました？」
心配になって尋ねると、突然噴き出す。
「あっはは、沖ちゃん天然なん？笑 金太郎は疑うやろ、普通」
「え、嘘だったんですか？ まぁ、ちょっと古風だなぁとは思いましたけど……」
「ちょっとどころやないて〜。
紫耀やで、俺の名前。平野紫耀。別に金先輩でもええけど。笑」
平野、紫耀。初めて聞いたけれど、先輩に合っていてとても素敵な名前だと思った。
「じゃあ、平野先輩」
「金はやめたんや？」
「はい、やめました。笑」
「それはそれで面白かったけど。
誰にも呼ばれたことないし……なぁ、沖ちゃんってかき氷好き？」
道路の向こう側にある「氷」の吊り旗を見つけた平野先輩が尋ねてくる。
「はい」と答えれば、「じゃあ、あそこ行こ！」と、目を輝かせて。
9月に入ってもまだ真夏みたいに暑かったから、
私たちはかなり喉が渇いていて、その提案は絶妙なタイミングだった。
いつもはまっすぐ進むから渡ったことのない横断歩道の前に平野先輩と並んで、
信号が青に変わるのを待つ。道路の脇にはコスモスの花が咲いていた。
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夜木(プロフ) - こぐまさん» ありがとうございます！私の-S.Hirano-作品は完結した試しがないですが、温かい目で見守っていただけると嬉しいです……(^^;; (2020年7月8日 19時) (
レス) id: 3ad168143d (このIDを非表示/違反報告)
こぐま(プロフ) - 新作〜♪楽しみにしてます！！ (2020年7月7日 23時) (レス) id: 0a8e78817c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夜木 | 作成日時：2020年7月7日 23時
