７３ 幾重にも重なる事実 薬研side ページ38
「…そうか。そうだったんだな、矢っ張り。漸く認めてくれたんだな、大将」
「嗚呼」大将はしっかりと頷いて、俺の目を見た。「間違いない。もう間違えない、誤魔化さない。俺は、確かに呪いを受けていたんだ」
大将が漸く認めた真実。それは、茉莉守が呪われた刀剣として、大将の体調を蝕んでいた事。大将にとって、この真実を認めるのは大きな一歩だった。
大将は刀剣を心から大切にしてくれている。それは俺達も然り。だからこそ、大切な者の所為にする事は、余りにも残酷で。それを認めた大将は、間違いなく、過去の自分を乗り越えたのだった。
俺は大将に少し近寄る。「……大将、俺っち、いち兄達と話をしたんだ。茉莉守について」
「…おう」
「それで、少し茉莉守について調べてみたんだ」
時は少し遡る………。
「茉莉守くんについて調べて欲しいって？」
「嗚呼。俺といち兄達からの頼みだ。聞いてくれるか？」
俺は少し前に、山姥切長義に会い、茉莉守について調べて欲しいと頼んだ。…何故山姥切長義に頼んだかは伏せるが。
山姥切長義は考える素振りを見せた後、ふっ、と顔を上げ、了承の意を示してくれた。「…判った。きっと事情があるんだろう。深くは聞かないでおくよ」
「助かる」
「只、少しだけ時間を貰えるかな。何せ、調べると言っても重労働でね。暫く出陣しなかった事もあってか、身体が鈍ってるんだ」
「勿論だ。ある程度で良い。まとめられたら教えてくれ」
「主の為だからね。皆に協力させて貰うよ」
「………さては、最初から狙いを判って話を聞いていたな？」
「さて、如何だろうね」山姥切長義はにっこりと微笑むと、俺の前から去って行った。
それから数日後。山姥切長義は、丁寧にまとめられた書類を手に、俺の下にやって来た。
「はい。これ、約束の物だよ」
「案外早かったな。助かるぜ」
「これでも苦労したんだよ。何せ、まだ実装されて日が浅いからね。情報も極端に少なくて」
確かに、茉莉守は大将以外の本丸から姿を消している。情報が定期的に入って来ない中、よく調べてくれたもんだ。俺は山姥切長義に礼を言い、早速書類を読み始めた。
「……長義に頼んだのか。…それで？」
「大将、興味深い事実が判ったんだ」
「…興味深い事実？」
「嗚呼。それはだな──」
その時だった。
「主ぃぃぃ！！清光を止めてぇぇぇぇ！！」
襖の向こう側から、大和守の叫び声が聞こえた。
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