７２ エゴ ページ37
審神者部屋の襖に、俺と安定は耳を当てた。気になる。あの薬研が、主とどんな話をするのか。
「おう薬研。如何かしたか？」相変わらず平心を装う主。あのね、俺達はそういう無理をしている姿を見るのが嫌いなんだよ、主。俺と同じ気持ちなのか、安定も主の声を聞いて、むすっ、とした表情をした。
薬研が少しの沈黙の後、言葉を放った。「…大将、俺も、他の奴らも、大将の調子が悪いのは判ってんだ。元気な振りは止めてくれ」「…そうか。矢っ張りお前達には敵わないよなぁ」主は、穏やかな口調でそう言った。
「………大将、茉莉守の事だろ。大将がそんなにも調子を悪くして、食事も一緒に取らず、引き篭る理由は」
「あははっ。まあ、そうだけどさ。引き篭もりじゃねぇからな？ちゃんと散歩してるし！」
主は、掠れ気味の声でそう笑うと、少し間を置いてから喋り始めた。「…前、他の審神者達と会合しに行った事が会っただろ？それから少しして、その審神者達の本丸から淤御国が居なくなった」
「俺だけが、最後の淤御国を所持する審神者だったんだ。なのに…俺は淤御国の事をと考えて、結局は自分の事ばかりだったんだ。『お前の事を救いたい』って言ったのに、彼奴は気にしてる筈なのに、それなのに…」
「…大将」
「今だってそうだ。俺はお前達が心配すると判っているのに、元気な振りを続けていた。…本当は誕生日会の時も、一寸体調が悪かったんだ。でも、あんな誕生日会初めてで。…如何しても、最後まで楽しく過ごしたかった。俺の我儘だったんだ」
主の悔しそうな、辛そうな、申し訳なさそうな声が木霊する。そんな事を思っていたんだ。てっきり俺は、主に持病があって、長年大丈夫だったのが再発したのかと。
安定も驚いた様な顔をしている。この中に入れないのが悔しい。そんな思いで、俺はより耳をすませた。
その時、俺の耳に、衝撃的な言葉が飛び込んで来た。
「…俺、今なら正直になれる。俺の今までの体調不良は───」
「───淤御国の呪いだったんだ」
「…え、」
つい、声が出てしまった。淤御国の呪いが、主の体調不良の原因…？
主は、体調不良を淤御国の所為にしたって事…？
一寸待ってよ、それはないよ。俺達の好きな刀剣を大事にする主じゃないよ。
俺の胸の中が、途端にザワザワし始めた。「清光、清光！落ち着いて…！」安定が必死に俺を宥めようとする。俺はそんなの聞いておらず、主を押切ろうと、抜刀していた。
７３ 幾重にも重なる事実 薬研side→←７１ 疑事無功だから 加州side
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