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ずるずると石畳を這いつくばって進む伯爵はまだこちらに気付いてはいないようだった。その芋虫のような姿に思わず口角が歪む。わざわざ匍匐前進で逃げているのは腱を切られたが為に足が使えないからだろう。他ならぬ自分の手によって。
「……悩むもんでもないわな。殺そか、つかさん」
「あー……私はどうしたらいい?」
「見たくなかったら見んでええで」
「わかった」
つかさんの能力を侮っているつもりはない。まあ今日でこそこんな状態の相手だが、例えそうでなくとも彼女が共闘してくれるのは非常に心強い。だがそれでも彼女に殺させる気にはなれなかった。だって、自分の楽しみが減ってしまうのだから。
これから殺されることを知ってか知らずかただ息を吸う鼠。その退路を絶つように、伯爵の目の前にしゃがみ込む。目の前の足、そして急に差した影の正体を見んと恐る恐る面を上げたそいつは情けなくも声にならない悲鳴を上げた。
「なあ、伯爵さん」
「……ひっ、」
「そんなびびらんとってぇや。それはともかく、えらい頑張っとんな」
「あ、当たり前だろう!?お前みたいな奴に殺されて堪るか……!お前なんざに、人間の成り損ないの死神如きに!!」
……元々は散々いたぶってから殺す予定だった。その為につかさんの関与を退けた訳なのだし、そもそも結構気に入っていた拠点を燃やされたというのは良い気分になんかなれやしない。しかし気が変わった。全くいたぶらない訳ではないが、彼はほとんど一思いに殺してやろう。
恐怖と自尊、私欲と執念の入り雑じった眼は今まで殺してきた奴等と同じそれだ。つまらない弱者である証拠。
「安心しい、ちゃんと殺したるから」
「な、何す……」
「何やろなぁ」
動きを止めた奴の両の手の甲に刃を突き刺す。汚い悲鳴が閑静な街を劈き、その場に縫い止められた奴は激痛に身悶えしていた。太った指に嵌められた装飾品がたちまち血に染まっていく。さながら十字架上のキリストのようだ、なんて不躾なことを考えた。
刺したナイフを引っこ抜けば奴はもう悲鳴すら上げられないのか、瞳と口を開いて身体を跳ねさせる。切れ味はまだ良さそうだし、止めを刺す程度は耐えうるだろう。横目で四人の方を見るとどうやら軍曹さんの手当て中らしかった。人を治してる横で人を傷付けているとは可笑しな話だ。
「そんじゃ、さよーなら」
恐怖に満ちた顔から一つ、涙が溢れる。好きなだけ地獄楽しんどきや、そう言ってナイフを喉元に振りかざした。
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