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指先が冷たい。
肌を突き刺すような凍える程の冷気に、彼はぱちりと目を覚ました。悴んで赤みの差した手に数回息を吹き掛け、ずり落ちていたボロボロの毛布へと潜り込む。
しばらくして彼は再度毛布から顔を出した。二度寝したかったが眠れない、といったような不機嫌極まる顔である。
「……ねむ」
隣を見ればまだ意識の海に揺蕩っているのであろう二人の仲間。あどけない顔にすっと皺が刻まれるのを見て、彼は睡眠の邪魔をしてしまったかと申し訳なさげに二人を見遣る。
しかしながら起きる気配がないことに彼は安堵の溜め息を漏らす。
そっと立ち上がって側に置いていた錻製のバケツを掴み取り、パーカーに付いた埃を払う。そして彼はいつもの様に、せいぜい雨露しか凌げない小さな破屋を後にするのだ。
「寒すぎやろ、死にそ……」
雪を欺く白髪を揺らして歩く彼。
早朝で人通りの少ない荒廃した道は、幼い少年がたった一人で進むにはあまりに不釣り合いであると言わざるを得ない。
まばらに通る人からの訝しげな視線をものともせず、ただ悠然と歩いていく。
夜明け前、お天道様はまだ夢の中。
橙と黄、水色と群青。二色ずつで分かたれた空の合間は桃色と薄紫。混沌とした東側とは対照的な落ち着きを見せる西の空にはまだお月様が煌めいている。
「月の方が好きやなー……」
月はかつて地球の一部だったという説があるらしい。地球が自分だったら、月は欠落した自分の感情。
どこか似てる、と彼は自虐的な笑みを浮かべた。
その少年に固有の名前は存在しない。敢えて言うなれば、大事な仲間達から軍曹、と呼び親しまれているだけである。
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